「長老政治」で誕生した習近平政権

 中国政治が本当に集団指導体制で行われているのならば、時間が経つにつれて派閥政治に移行していくはずだ。

 実は、派閥政治こそが、専制政治から民主主義政治に移行する際の重要なステップである。派閥政治では、各派閥の間で互いに妥協できる最大公約数の着地点が模索され、合意に至る。独裁政治に比べて権力が制御されるようになるという点で、「文明社会」に進化する、と言ってもよい。

 習近平政権誕生のプロセスを見ると、決して集団指導体制で誕生したものではなかったと思われる。習近平が国家主席に指名されたのは、すでに引退したはずの長老指導者の意思が色濃く反映されているはずだ。具体的には、江沢民元国家主席や朱鎔基元首相といった長老の意思である。

 中国のこのような独特な政治システムは、日本の大企業のトップの人事制度と酷似している。日本の大企業の社長人事は決して民主的に決められるものではない。同じ年次の候補者のなかから誰を次期社長にするかを決めるプロセスは、中国政治と同じぐらい曖昧かつ複雑な過程である。

 日本の大企業の社長は従業員によって選ばれているものではない。かといって株主総会で選ばれてもいない。建前では、取締役会で社長が選出されることになっている。

 大企業の取締役会は中国共産党中央の常務委員会に相当する組織である。周知のとおり、多くの場合において取締役会が開かれる前に、次期社長の人事はすでに決定されている。取締役会は次期社長人事を承認する組織に過ぎない。

 では、実際に誰が次期社長の人事を決めているのだろうか。