「中国で日系企業を中心にストが多発」と報道されている。日本企業が狙い打ちされているのではないかという指摘もあった。
しかし実際は、ストの発生は日系企業に限定したものではなく、広くいろいろな形態の企業で労働争議が起きている。
日系企業の場合、労働者の賃上げ要求に対処するスピードが遅く、問題が大きく発展してしまったため、メディアに大きく取り上げられているのは事実である。とりわけ自動車産業の場合、日本企業は在庫を持たないジャスト・イン・タイム方式を採用しているため、部品工場のストが組み立て工場(完成車工場)にまですぐに飛び火し、問題が一気に広がってしまう。
中国に進出している日系企業を含むほとんどの外資系企業は、中国で大規模なストが発生するとは想定していなかったはずである。労働組合が実質的に機能しない中国では、大規模な労働争議は起きないだろうと思われていた。
そもそも、中国の治安条例では、労働者のストは認められていない。理論的に社会主義の国では、労働者は国の主人公であり、ストを起こす必要はない。
高度経済成長にもかかわらず低水準だった賃金
では、なぜストが多発するようになったのだろうか。
本来ならば、労働争議はストに発展する前に、労働者はその代表組織である「工会」(労働組合)を通じて集団的交渉権を行使する。それが決裂した場合にストに突入する。
だが、中国では工会が実質的に機能していない。そのため、労働者の賃上げ要求はあるレベルにまで達すると、いきなりストになる。
事実、今回、広東省などで起きたストは工会が組織したものではない。地方政府は誰がリーダーだったのかを調べたが、リーダーが見当たらず、自発的な行動だったことが明らかになった。
工場の労働者がストを起こす背景には、これまでの30年間、実質GDP伸び率が9.9%に達したのに対して、工場労働者、とりわけ出稼ぎ労働者の賃金がわずかしか伸びていないことがある。
2009年後半になって、一連の景気刺激策が功を奏し、中国経済はV字型回復を果たした。それを受けて、広東省などの沿海大都市で労働者の募集が増えるようになった。しかし、応募する労働者が少なく、「民工荒」(労働者不足)が起きている。
「民工荒」は労働力不足によるものではなく、労働者の賃金が長い間低水準に抑えられた結果である。