1979年にメルトダウン事故を起こしたスリーマイル島原発からの現地取材報告を続ける。電力会社の情報の出し渋り、行政対応の混乱、住民避難の失敗、報道の混乱と無力など、34年前に起きた現象が、私が取材してきた福島第一原発事故とそっくりであることを報告してきた。

 今週からしばらく、今回の取材の本題である「住民の健康被害」と、それを調査した「疫学調査」、それへの補償をめぐる「訴訟」について書いていく。事故から34年が経過し「健康被害」「訴訟」など福島第一原発事故でも今後最も深刻な議論になるはずである論点について、TMI原発周辺では結論が出ているからである。筆者がTMI原発の現地に通い続けて取材しているのも、こうした「TMIの現在はフクシマの未来ではないのか」と推論しているからである。

 もう一度、全体の俯瞰図を説明しておく。

・ 連邦政府・州政府・電力会社は「TMI原発事故での放射性物質の放出はごくわずかで、周辺住民の健康への影響はなかった」という立場を崩していない。

・ 州・連邦政府の調査結果に疑問を持ついくつかの住民グループが、ボランティアで戸別訪問をして聞き取り調査をした。健康被害が増えているという結論を出した。

・ しかし、住民の多くは「知り合いや近所でがん死などの健康被害が増えた」と「生活実感」のレベルで疑問を抱いている。

最高金額で和解したベイカーさん一家

 どうか会ってくれますように。祈るような気持ちで私はレンタカーを走らせた。ペンシルベニア州の州都ハリスバーグを出て、15分ほどフリーウエイを西に飛ばした。都市郊外の住宅地に入った。なだらかな丘陵地に平屋建ての家屋が点在している。中産階級の住宅街だ。

 大きな木立が、夏の太陽から家を守っている。その中に、目指すベイカーさんの家があるはずだ。