中国の歴代首相が、政府活動報告の中で、経済政策を立てるうえでの一番の悩みとして毎回挙げるのが、物価の上昇である。

 現在、中国の景気は減速局面に転じているが、李克強首相は前任者たちと同様に物価の上昇を心配していると強調する。景気が減速すれば、物価の上昇よりもデフレーションを心配するはずである。なぜ中国では、景気の良しあしと関係なく物価が上昇するのだろうか。

 一般的に経済学では、いかなる財やサービスでも、その需要が供給を上回ると価格は上昇するものとされている。その価格の上昇によって需要が抑制され、供給と均衡するようになれば、価格の上昇が止まる。逆に、需要が供給を下回るとメーカーは在庫を抱えるようになり、値下げを実施する。価格の下落は需要を刺激し、供給と均衡するようになればデフレーションがストップする。これは市場経済の基本である。

ことあるごとに買い占めに走る中国人

 目下の中国経済は投資が伸び悩み消費が盛り上がらないため、景気が減速していると言われている。しかし、中国人の購買力が弱くなったわけではない。家計貯蓄はGDP比で30%に達し、市中ではマネーがじゃぶじゃぶとあふれた状態にあり、いつでもインフレが再燃する恐れがある。

 中国の検索サイト「baidu.com」内のニュースコーナーに35枚の写真が貼り付けられている。それは1980年代以来の中国で、パニックに陥った消費者が様々な商品を買い占めたときの姿だった。

 古いものには、1983年、北京のデパートで大勢の市民がシャツやジャケットを買い占める写真があった。88年の写真には、1人の南京市民(自称エンジニア)と冷蔵庫が写っている。彼は故郷南京で冷蔵庫が売り切れたため、わざわざ北京へ買いに行った。幸いにも冷蔵庫を手に入れることができた。だが汽車で南京に帰ったこのエンジニアは、どのようにして冷蔵庫を運んだのだろう。