今年の4月、米国のワシントンDC発、モスクワ行きの飛行機に、ある7歳の少年がたった1人で搭乗した。始終不安そうで、なにやら非常に混乱した様子だったという。

 少年は片道切符を手にし、リュックサックには「ロシア文部省宛」と書かれた手紙が入っていた。

 この手紙を開けたモスクワの入国管理審査官は驚愕した。以下が手紙の概要である。

 「半年前にロシアの孤児院からこの子を養子として迎えましたが、彼は非常に暴力的であり、深刻な精神病質の問題を抱えていることが分かりました。ロシアの孤児院はこの子を厄介払いするために、彼の精神状態について嘘をつきました。

 私は最善を尽くしましたが、残念ながら私自身と家族、そして友人たちの安全が脅かされていると感じ、これ以上この子の親であることを放棄します。これをもって養子縁組を解消してください」

 小さなリュックサックを背負い、青ざめた顔つきでモスクワに現れた少年の映像と共にこのニュースが流れると、ロシア中から激しい抗議と非難の声が、子供を「物」のように送り返した米国の養母に対して沸き起こった。

 同時に米国内でも「実子ならどんな問題があっても捨てたり、返却したりできない」「育児放棄の幼児虐待だ」という批判の声が高まった。両国でも、数日間このニュースで持ち切りになった。

我々の子供をまるで宅急便のように扱うとは・・・

 少年の本名はアルテム・サヴェリエフ。養子として迎えられた米国の家族にはジャスティンと呼ばれていた。

 彼の養母の名前はトリー・アン・ハンセン(34)。テネシー州に住む看護師で、シングルマザーとしてアルテムを迎えた。養子縁組は、定評のあるエージェントを通して行われ、法的にも2人はすでに「親子」だった。

 家族によると、アルテムはトリーや祖母に対して殴る、蹴る、つばを吐きかけるなどの行動を繰り返し、日を追ってエスカレートしていったという。さらにはハンセン家が燃えている絵を描き、周囲の人たちに「トリーたちが中にいる時に、僕が火をつけて皆を焼き殺すんだ」と言いふらしたという。