参院選で与党民主党が敗北を喫した。菅直人首相が勝敗ラインとしていた改選54議席に届かず、政界再編含みで政局は緊迫するだろう。今回の民主党の敗因は、「消費税10%」を安易に掲げた首相と党執行部の稚拙な選挙戦略に尽きる。

参院選スタート、菅首相は大阪で第一声

参院選で敗北を喫した菅首相〔AFPBB News

 徴税は外交や軍事と並んで国家の基本機能である。その最高権力者が子どもでも納める義務のある消費税増税について、その使途や低所得者の負担軽減策をきちんと準備しないまま、腰だめの「10%」を持ち出して選挙戦に突入した。「消費税で10議席は減らした」(民主党関係者)としても不思議はない。

 「腰だめ」といえば、1994年の細川護煕首相である。消費税を3%(当時)から7%に引き上げて国民福祉税に衣替えする構想を発表したものの、7%の根拠を「腰だめ」としか説明できず、世論の猛烈な批判を浴びて即時撤回を余儀なくされた。

 なぜ日本の為政者は税制に関して浅薄なのか。恐らくは、国民から税を徴収するという国家権力について明確な哲学を身につけていないのだろう。

 大国の歴史上、類を見ない猛スピードで日本は少子高齢化社会に突入した。その一方で、「国の借金」は1000兆円の大台が迫り、財政再建に一刻も早く着手しなくてはならない。しかし国際水準を考えれば所得税や法人税の増税は難しく、欧州などに比べて低い消費税率の引き上げは止むを得ない。

 国民の多くがその必要性を認識していても、今回の参院選では菅政権の安易で稚拙な増税構想に呆れ果て、民主党に一票を投じなかった人が相当な数に上るのではないか。

 今回の選挙は国民の消費税アレルギーを一段と強める結果となり、財政再建を掲げる菅首相が自らの手で消費税増税を一層困難にしたのかもしれない。そうならば「皮肉」では済まされず、この国の未来にとって「悲劇」と言うべきだろう。

財政を「鳥の目」で見ると、「債務超過」317兆円

 国家の運営には2つの「目」が不可欠である。1つは部分を詳細に分析する「虫の目」、もう1つが全体を俯瞰する「鳥の目」になる。「事業仕分け」という名の「虫の目」を使い、政権が省庁や天下り官僚が巣食う団体の濫費を阻止するのは当然である。

 しかしながら、それによって数千億円の財源が生まれても財政再建は達成できない。高齢化に伴う社会保障関連だけで毎年1兆円規模の自然増が発生しているからである。