黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

1. 米国における災害対策

 「災害医療と米国」の前回、第1回は、米国における災害対策のイニシアティブや、2002年の国土安全保障法成立に至る経緯、その意味合いについて述べてきた。

 そして、国土安全保障法が定める、災害対策の中身として、国家事態管理システム(National Incident Management System: NIMS/ニムスと発音される)と、国家対応計画(National Response Plan: NRP)の2つのイニシアティブがあると紹介した。

 今回は、このイニシアティブについて具体的に検証していきたい。そして次回、第3回では、いよいよその中でも、災害医療に関連する部分について掘り下げていく。

2. 指揮管理体制としての国家事態管理システム(NIMS)

 まずは、国家事態管理システムについて見ていこう。2004年に策定されて以降、いくつかの改定を経て、現在に至っている。この国家事態管理システムは、主に3つの機能を担っていると言えるだろう。

 そのなかで、最も主要なものは、あらゆる危機、緊急事態に対して適応される事態管理と命令システムとしての側面だ。つまり、何か緊急事態が起きた際、このシステムで定められた指揮管理体制が取られることになる。

 対象は、政府機関のみならず民間団体やNGOも含まれ、緊急事態の際は、官民一体の連携体制が取られることとなる。

 具体的には、事態指令システム(Incident Command System: ICS)と呼ばれる体系を取っており、その指令体系はこうだ。

 まず、事態指令部(Incident Command)は、総合指令官と3者の指令担当官、すなわち情報担当官、安全担当官、連絡担当官だのサポートから成り立ち、それぞれトップである総合司令官に直属している。

 そして、事態指令部の配下には、4つの一般担当部局が置かれる。それぞれ、オペレーション担当、計画担当、ロジスティクス担当、財務管理担当である。

 危機がテロであれ天災であれ、緊急事態が宣言された際は、基本的にこの体制での指揮命令系統が貫かれることになる。