米国のオバマ政権は「アジアへの旋回(ピボット)」を大々的に謳い「アジア最重視」政策を打ち出してきたが、それは空疎な美辞麗句に過ぎなかった――。

 こんな指摘が米国の専門家集団によって明らかにされた。米国のアジア重視を頼りにする日本にとっては不吉な暗雲をもたらす兆しだと言えよう。

唯一の希望の光だったアジア重視策

 オバマ政権は米国の内外を問わず、このところその評価を全面的に落としている。米国内では、オバマ大統領が最大の精力を注いだ医療保険改革、通称「オバマケア」が野党の共和党のみならず国民の幅広い層からの反発を買って混乱を極めている。また、財政赤字の膨張はオバマ氏自身の信奉する「大きな政府」の支出増大によってとどまるところを知らず、共和党との対立では政府機関の一部閉鎖を招くに至った。政府の赤字膨張が止まらなければ米国債のデフォルト(債務不履行)の危機さえ迫ってくる。

 一方、オバマ大統領は対外政策では「逃げ」に終始していると言っても過言ではない。シリア政府の化学兵器使用への制裁として軍事攻撃を明言したものの、それをすぐに引っ込め、ロシアに主導権を奪われた。こうした右往左往も、オバマ政権の対外リーダーシップの欠落を改めて印象づけた。中東においてはエジプトの激変を傍観するだけである。オバマ政権は北朝鮮やイランの核武装に対しても有効な策を講じることができず、ロシアや中国に国際情勢での主役の座を譲り渡すようにさえ見える。

 そんななかでオバマ政権は第1期の頃からアジア最重視を謳ってきた。中国の軍事、政治、経済面での勢力拡大に対抗する安定策、抑止策だとされた。イラクやアフガニスタンから撤退する米軍兵力の余剰をアジアに回すという意味で「アジアへの旋回」とも称された。消極姿勢、内向き一方のオバマ対外政策のなかではほぼ唯一とも言える希望の光だった。

 ところが、この「アジアへの旋回」という政策標語も空疎なジェスチャーだと言われるほどにまで評価が落ちてしまったのである。しかもその批判は、米国の内部にあって歴代政権の対外戦略や外交政策に実際に関わってきた専門家たちから出てきたのだ。

 ワシントンを拠点とする国際安全保障の研究調査機関「リグネット」が10月中旬にまとめた報告は、「オバマ政権の『アジアへの旋回』は空疎なレトリック」だと断じていた。それどころか「米国の対外イメージへの大きな打撃」とまで批判するのだ。「リグネット」は米国中央情報局(CIA)の国際戦略やアジア政策の元専門官たちの集団である。