宮崎県で猛威を振るっていた口蹄疫は、ようやく終息するかのように見えた。
6月24日には感染または感染の疑いが確認された家畜約20万頭の殺処分が終わり、さらにワクチン接種を受けた家畜の殺処分と埋却作業も30日に無事完了したという。
「殺処分された家畜の合計は27万6049頭に達した」と、新聞各紙は7月1日付の紙面で一斉に報じた(いずれの記事にも豚と牛を分けた頭数は記されていなかったが、これまでの報道からすると牛が約4万頭、残りの約23万頭が豚だと思われる)。
6月中旬以降、新たな感染例は報告されず、このまま口蹄疫ウイルスの活動が終息してくれればと誰もが願っていた。
ところが7月4日に、宮崎市内の農家で口蹄疫に感染した牛1頭が確認された。同じ農家で飼育されていた16頭の牛は早急に殺処分されるという。
またしても非常事態宣言の解除を目前にして新たな感染が発生したわけで、畜産農家をはじめとする関係者の落胆は想像するにあまりある。
口蹄疫を巡る情況は刻一刻と変化しており、本稿はそうした渦中で書かれたことを念頭においてお読みいただきたい。
屠畜場が近代工場に、同時に牛肉が高品質化
新聞やテレビではあまり報じられていないが、宮崎、鹿児島、群馬県産の和牛肉は米国、カナダ、香港、シンガポール、ベトナムなどに輸出されている。
1991年の牛肉の輸入自由化に対抗して、和牛肉の対米輸出が計画された。ただし、米国と同等の衛生水準、施設水準、検査基準を満たした屠畜場で解体された牛の肉でなければ米国は輸入を認めない。
それまで日本には米国の基準をクリアする屠畜場はなかったが、群馬・宮崎・鹿児島の3県が立候補して諸条件の改善に努めた。
私が勤務していた大宮の屠畜場がそうだったように、日本では長い間、牛も豚もコンクリートの床に仰向けに寝かせた状態で解体作業をしていた。
この方法だと作業スペースもそれほど要らず、基本的にナイフとノコギリさえあれば、牛も豚も馬も羊も屠畜できる。ただし作業の間は屠体が床面に接しているため、血液や腸の内容物等が肉に付着することがある。
もちろん、まめにホースの水で洗い流していたが、その程度の対応で済ませていたのは、肉は焼いて食べるもので、焼けば細菌は死ぬという発想が人々に共有されていたからだと思う。
逆に言えば、火を通さない肉は危ないわけで、今でもある年齢以上の人たちは、生焼けの肉や生肉に対する警戒心が非常に強いのではないだろうか。
一方、米国では肉の加熱不十分による種々の細菌感染が問題となっており、家畜の解体作業において、1頭ごとにナイフを83度以上の熱湯につけて殺菌消毒することや、食道と肛門を縛って胃の内容物や直腸便が洩れ出ないようにするなどの対策が取られていた。
併せて、牛も豚もレールから吊り下げたまま流れ作業で解体していくオンラインシステムが導入されて、屠畜場は近代的な工場と化した。