先週の国会で、ちょっと変わったやり取りがあった。民主党が日銀の「異次元緩和」のリスクについて質問したのに対して、安倍晋三首相は日本経済をゴルフに例え、「今はバンカー(ゴルフコースの脇にある砂場)に入ってしまっている。グリーンの先に崖があることを心配してずっとパットで打ってもボールは出ない」と答えたのだ。

 この例えは内閣官房参与である浜田宏一氏の持論で、崖はハイパーインフレや金利上昇だ。彼は「日銀は崖に落ちるんじゃないかと心配して、おっかなびっくりで小出しに打っているからきかないのだ。崖なんかないんだから思い切って振ればいい」という。

 2013年4月、黒田東彦日銀総裁がボールを思い切り打ってから半年たった。「ボールはグリーンにまさに乗ろうとしてるわけですから」と首相は自信たっぷりに答えたが、それは本当だろうか。

事実で反証された岩田理論

 まず「2015年4月までに消費者物価指数(CPI)上昇率を2%にする」というインフレ目標は、どうなっているだろうか。今年8月の総合CPIは昨年より0.9%上がっているが、この最大の要因は原発の停止によって電気代が9%も上がり、円安で光熱費が11%も上がったことだ。

 日銀が指標としているコアコアCPI(食料・エネルギーを除いた指数)上昇率は、-0.1%のデフレだ。今年の初めに比べると上昇しているが、そのほとんどは円安で輸入品の価格が上がる輸入インフレだ。例えばガソリンの価格は、160円/リットルと、リーマン・ショック以来の高値になっている。こういうインフレで、誰がうれしいのだろうか。

 日銀の岩田規久男副総裁は、国会で「2015年4月までに2%のインフレを実現するというインフレ目標が達成できなければ辞職する」と明言したが、彼の約束から半年経っても、コアコアCPIはマイナスで、白川方明総裁時代とほとんど変わらない。

 岩田氏の重視する予想インフレ率はどうだろうか。図1は、彼がかねて論文などで主張している「日銀当座預金残高が10%増えると、予想インフレ率は0.44%ポイント上がる」という理論を実際のデータで検証したものだ。予想インフレ率の指標としては、物価連動国債のブレークイーブンインフレ率(BEI)を取り、当座預金残高は1/100で表示した。

図1 岩田理論の予言したBEIと実際のBEI(%)