「申し訳ないけど、どうしてもこのソフトを使いたくない。返品したいのだが・・・」
先日、当社のユーザー企業の経営陣に言われた言葉である。当社の16年という社歴の中で、初めての出来事だ。
このユーザーは、リーマン・ショック以来、売り上げが伸び悩み、業容の見直しに着手した。メーンフレームの大規模なシステムをスモールサイジングして再構築している最中のことである。
返品したいと言ってきたのは、ある国産ERPのモジュール。システムの心臓部分に当たる管理会計のモジュールだ。そんな大切な部分だからこそ妥協はできないという死に物狂いの状況がうかがえた。
過去、我々は「事例もなく、経験もない」という状況の中でOracleのAPPS(現在の「Oracle E-Business Suite」)をユーザーに導入し、それ以来、数十社へERPを導入して無事に稼働させてきた。今回の事例は今までとは何が違うのか?
システムを導入する時には、ユーザーとツールベンダー(パッケージソフトの販売元)、そして当社のようなシステムインテグレーターががっちりとスクラムを組み、一体となった体制をつくる必要がある。だが、その一角がやるべきことをやらずに崩れると、様々なトラブルが発生する。
今回の出来事が発生したのは、明らかにツールベンダーの責任であった。ツールベンダーには製品提供者としての責任が発生するのだが、この意識が欠けていたのである。
「誠意」が欠けていたツールベンダー
これが海外のツールベンダーだとどうなっているだろうか?
私が以前勤めていたアーンスト&ヤングの場合は、海外製品を日本で販売することになると、日本語化をすると同時に、コンサルタントに体系的な教育を施し、導入方法(メソドロジー)を徹底的に教え込んでいた。また、操作・教育マニュアルの和訳、ユーザーが導入する際の問題の検討なども同時に進行させていた。リリースまでに、かなりの費用をかけていたのである。
このように一般的に欧米のビジネスソフトのベンダーは、製品をよりよく使ってもらうためにあらゆる体制を整えてからリリースする。それに比べて日本では「とりあえず製品が完成したから、試しに販売してみるか」という安易な姿勢のベンダーが少なくない。
そのソフトを導入したファーストユーザーは、たまったものではない。中途半端なソフトの機能とサポートのおかげで日常の業務がストップしてしまうかもしれないである。
もちろん日本の中堅ツールベンダーのすべてがそうだと言っているわけではない。欧米のベンダーのような考え方を持ち、万全の体制でリリースするところもある。また、リリースする製品が完全ではなくても、その後の手厚いサポートでユーザーの信頼を勝ち取っているベンダーもある。