英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は2013年7月23日付の社説で、参院選における与党の勝利によって対ロシア外交に千載一遇のチャンスが到来したと主張し、ロシアと日本の歩み寄りの可能性を見ている。
それでなくともすでに本年4月末には安倍晋三首相の訪ロにより、10年ぶりの日ロ共同声明が署名され、日ロ関係の改善、なかんずく領土問題の解決に向けた期待感は、日本国内でも非常な高まりを見せている。
日に日に増す中国の影響力
特に注目されるのは、地政学的思考を好むウラジーミル・プーチン大統領がロシア極東における中国の影響力の増大を懸念しており、そのバランスを正すためにもこれまで関係が比較的希薄であった日本が必要なので、日ロ関係の改善に並々ならぬ意欲を見せているという言説の広まりである。
最も楽観的なものは、今度こそロシアは北方領土問題の解決に正面切って取り組むし、領土交渉のテーブルに着く以上は、何らかの譲歩を考えているはずだとさえ主張している。
そこで今回の記事では、今後の我が国の対ロシア関係打開の可能性について、これまでの経緯を踏まえつつ、ロシアと中国との関係も念頭に置きながら、検討してみることとしたい。
よく知られていることだが、これまでの我が国の対ロシア外交は、すべてにおいてまず北方領土問題をどう解決するかが一丁目一番地であった。領土問題を解決して平和条約を締結するという「順序」が確立しており、現時点でもこの点に安易な変更は許されない状態にあると思われる。
後に述べる通り、これまでも日ロ間には様々な交渉があって複雑な紆余曲折があった。しかし、結局のところロシア(ソ連)は北方領土の返還には応じておらず、2国間の平和条約も締結されずにいる。
このことは日ロ関係がこの間全く動かなかったというわけではないが、大筋としては戦後一貫して膠着状態のままであるというのが重要な客観的事実だ。
膠着状態にある領土問題を解決すべく、これまでも外交当局は無策であったわけではない。
例えば、問題となっている領土は歯舞諸島、色丹島のみならず、国後島、択捉島を含む4島であるかどうかに関する攻防があったし、国境の確定と実際の返還を時期的にずらす手続き論に関する議論も、実効支配をしているロシア側を揺り動かす材料として提起された。