経営力がまぶしい日本の市町村50選(16)

 北海道下川町はスキーのジャンプ選手を輩出していることでも知られている町である。ロシアのソチオリンピックでは実に7回目の出場を目指す葛西紀明選手を筆頭に伊東大貴選手など、人口わずか3600人の町は次々と有力選手を生み出してきた。

下川町の安斎保町長

 なぜなのだろう。疑問に思いながら下川町を訪ねた。そして安斎保町長と話をしているうちに何となくその理由が分かってきた。

 この町は、何でも1番を目指そうという意気込みがみなぎっているのである。「1番じゃなければダメなんですか」は民主党の政治家による名言だったが、その逆の精神をこの町の人たちは愛しているのだ。

 どうせやるなら1位を目指そう。そのためには何をやるべきか考える。本人もそうだが町でも最も効果的な支援策を考える。1位を目指そうという志と考える習慣が、3600人ほどの町がオリンピック選手を生み出す原点となっている。

 一方で、義理と人情にも篤い。下川町にはスズキの耐寒用のテストコースがあり、毎年数多くのスズキ社員がこの町を訪れる。彼らが使うお金は下川町にとって貴重な収入源になっている。

 そのため、下川町の安斎町長は公用車をすべてスズキ製にしただけでなく、スズキの車を買う町民には補助金を出した。スズキに対する感謝の気持ちだそうだ。

 そうしたら、その話を聞きつけた鈴木修会長から安斎町長に直接電話がかかってきたという。「補助金を出してくれたんだって。何ぼかかったんだ。そうか、それはわしが払おう」。鈴木修会長はそう言うと、自分の財布から補助金分を寄付してくれたという。

 1番を目指す志と考える習慣、そして義理人情。小さな町でも為せば成る。下川町の取り組みから学べることは多い。

循環型森林経営で、町を支えてきた木を守り育て続ける

川嶋 下川町は「循環型森林経営」を掲げています。森林資源を町の経営に生かすことに着目された経緯から教えていただけますか。

安斎 私が町長になって、まず素晴らしいと心に刻んだのが土光敏夫さん(元経団連会長、企業の経営再建に手腕を発揮するほか行政改革の顔として活躍)の遺訓です。

 それは、国鉄や電電(公社)がつぶれても必ずそれに代わるものが出てくるから日本は困らない。しかし森林を滅ぼしてしまったら日本の国が滅びてしまう、という趣旨の言葉でした。

 そもそも下川は1901(明治34)年に岐阜の郡上(現郡上市)から入植者がやって来て以来、ずっと森林とともに歩んできたところです。農業と林業、そして鉱山の町として発展し、これまでやってくることができた。だから森林や林業に対する思いは非常に強く、その大切さを知っているということです。