5月30日、自民党は新「防衛計画の大綱」(防衛大綱)策定に係る提言をまとめた。政府は今年1月の閣議で、日本の防衛力整備や運用のあり方を示す防衛大綱の見直しと、中期防衛力整備計画(中期防、2011~15年度)の廃止を決めている。

 現防衛大綱(22大綱)は民主党政権下、平成22年に策定されたものであり、わずか3年で見直されることになる。これまで防衛大綱は4回策定されたが、最も短期間で見直された16大綱でも6年間使用された。

環境に適応する者のみが生き残る

 防衛大綱は国家の安全保障戦略、防衛戦略の一部を含み、10年程度を念頭においた防衛力のあり方の指針、運用・整備の基本を示すものである。国家の安全保障戦略や外交戦略は政権が代わるたびに、コロコロ変わるものであってはならない。

 他方、安全保障環境に急激な変化があった場合、これに適切に対応できるよう、防衛力のあり方を機動的に見直すことも重要である。ダーウインは進化論で「強い者」が生き残るのではなく「環境に適応する者」のみが生き残るという「適者生存」を説いた。

 旧陸軍の白兵突撃主義、旧海軍の大艦巨砲主義、海外にあってはフランスのマジノラインなど、環境の変化に目を閉ざし、惨めな結果を招いた歴史は枚挙にいとまがない。今回の見直しは、近年の安全保障環境の激変に適応できる「適者生存」を目指さねばならない。

 大綱策定以降、日本を取り巻く安全保障環境は激変した。22大綱策定1年後の2011年暮れに北朝鮮の指導者金正日が死去。北朝鮮は新たな独裁者となった金正恩体制の下、昨年12月、人工衛星と称する弾道ミサイルを発射し、今年2月には3回目の核実験を実施した。

 急速な経済成長と、二十数年にわたる驚異的な軍拡によって自信をつけた中国は、南シナ海、東シナ海で挑戦的活動を活発化させている。特に昨年9月の尖閣国有化以降、尖閣諸島周辺での挑発的行動や傍若無人化は勢いを増す一方である。

 中国は「力が国境を決める」という華夷秩序的な考え方を有している。チベット、新疆ウイグル自治区への侵略の歴史や南シナ海での「ナイン・ダッシュ・ライン」(U字状に広がる境界線内すべてに中国の権益が及ぶと主張するライン)を見ればよく分かる。

 5月には中国共産党機関紙人民日報が「沖縄の帰属は未解決」とし「中国に領有権がある」と示唆するような記事を載せた。米政府が即座に日本の主権を認めたためか、環球時報では「琉球国復活に向けた勢力育成」とトーンダウンさせた。

 だが「20~30年を経て中国の実力が強大になれば幻想ではない」とも記述しており、「力が領有権を決める」といった華夷秩序的考え方を自ら暴露している。

 一方、日本の頼みの綱、同盟国である米国は、昨年1月国防戦略指針を公表し、アジア太平洋地域を重視(“pivot to Asia”“rebalance”)することを明確にしたものの、厳しい財政事情を抱え、国力の衰退傾向は否定できない。