この十数年来、日中関係は歴史認識の違いや領土領海問題を巡る対立によって緊張の度が増している。中国では中国人若者による反日デモが繰り返され、日中両国では、国民感情が悪化し、国交回復して以来、最悪な状態が続いている。日本では、日中関係が悪化し反日デモが繰り返されているのは中国政府が進める愛国教育のせいだという指摘が少なくない。

 しかし、中国の愛国教育は十数年前から始まったものではない。共産党が政権を取り、中華人民共和国が成立してから一貫して「愛国主義教育」が学校や職場などで行われている。それを推進するのは共産党の下部組織である共産主義青年団である。

 こうした「愛国主義教育」が展開される中で「愛国」と「愛党(共産党)」が混同されてしまったのは問題と思われる。毛沢東の時代、「反党反革命」が罪として問われていた。今でも、共産党を批判し、民主主義の実現を求める人権活動家が、「政権転覆罪」を問われ多く投獄されている。

 本来ならば、国を愛する者は必ずしも共産党を愛さなくてもいいはずである。中国には8000万~9000万人の共産党員がいると言われている。この人たちこそが共産党を愛さなければならない。共産党員ではない一般の国民に「愛党」を求めるのはそもそも筋違いの議論である。一般の国民は国を愛しても共産党を愛する必要はまったくない。

学校や地域の「愛国主義教育」は効果が薄い

 中国の歴史教科書には間違った記述が少なくない。例えば、朝鮮戦争を引き起こしたのは韓国とアメリカだとされている。実際は、金日成が率いる北朝鮮軍による南への侵略がきっかけだった。このような間違った記述は歴史教科書では随所に見られる。しかし、それを訂正しようとする動きはいまだ少ない。

 中国の学校教育において、歴史は大学受験の必須科目である。そのために、抗日戦争の背景と意義などを大学受験の学生は丸ごと暗記しなければならない。ここに、イデオロギー的な愛国主義教育の意味はまったくない。受験が終われば、教科書を暗記した内容のほとんどが忘れられてしまう。

 共産党による本物の「愛国主義教育」は、学校の授業以外のところで行われる。すなわち、各地域では週に1度(半日)は共産主義青年団の活動として愛国主義教育が展開されている。例えば、模範的な軍人や労働者を呼んで愛国報告会を行うなどのやり方で、蒋介石時代の中国社会と毛沢東時代の新中国と対比しながら、愛国と愛党を喚起する。このような愛国主義教育は毛沢東時代からずっと続けられてきた。

 しかし、こうした硬直的な「愛国主義教育」はほとんど効果がなかった。多くの学生がこうした活動に参加したのは、参加せざるを得なかったからである。青年団の幹部たちも、活動の必要性を認識しているというよりも、やむなく仕事としてやっている。「真面目」にやれば学校に高く評価され出世できるからである。結局のところ、いわゆる愛国教育は最初から教条的に行われていた。