新年度になりました。新入社、新入学、あるいは生活の場を一新された人、いろんな方がおられると思います。新しい生活が充実されますように! 今回はそんなお話をしてみたいと思います。

 大学で学生の相談に乗っていて「やりたいことがよく分からない」という話を結構頻繁に耳にします。でも、やりたいことって何なんでしょう? それと、巡り合わせでやることになるもの、というのもあります。

 やりたいことだけ、やっていて、人生が送れれば・・・まあ、幸せなことかもしれません。でも、本当にそれしかなかったら・・・たぶん、結構退屈で、発展性のない生涯になるような気もするのです。

 なぜか・・・?

驚きこそが人間を幸せにする

 なぜ、やりたいことだけの人生が退屈か? と問われれば、答えは簡単です。あらかじめ、「これがやりたい」と自分が知っていることだけであれば、それを超える新たな出合い、驚きはないだろうから。

 人間というのは退屈する動物です。何でもすぐに飽きてしまう。逆に新しいものは好きです。好奇心というものが人間を人間たらしめている。

 多くの動物は、本能というか、生まれつきビルトインされた遺伝情報に基づいて、その一生を送ります。犬はワンと鳴いて肉を食べ、猫はニャーと鳴いて丸くなる。犬が新しいカラオケのレパートリーを増やしたり、猫がこの春の新色の口紅で装ったりすることはない。

 20世紀ドイツの哲学者、ハイデガーは、こうした人間の特質を捉えて、

 「人間とは、外に出てゆこうとする存在である」

 と述べているようですが、実際私たちが「人間らしい暮らし」を生き生きと送ろうとするなら、適度の古くからあるものの反復と、適度の新しい要素の出入り、いわば「環境の新陳代謝」がとても大切になると思うのです。

 つまり、新入社とか新入学といった気分一新は、とても人間的なリフレッシュメントだということができそうな気がします。

 先ほどお話ししたような「自分は何がやりたいのかよく分からない」と言う学生さんたちも、新しいもの、新奇な話題は決して嫌いではありません。新しいゲーム、新しいヒットソング、ファッション・・・目新しく、素敵なものには、なかなか敏感に反応する人が決して少なくない。

 「驚き」こそが、人間を人間たらしめている、と思うのです。もっと言えば「幸せな驚き」という感情。例えば、誕生日やクリスマスのプレゼントで、思いがけない素敵なものをもらった、あるいは、仕事が順調に進んで思いがけない大きな収穫につながった、とか。

 こういう感情が動物たちにあるか、と考えてみると、あまりないような気がします。猫は大きな魚を見つけると「エサ!」と思うでしょうが、思いがけない驚きの喜びと思うかは定かでない。