昨(2012)年7月初め、ロシア科学アカデミーに所属する友人から突然のメールがあり、10月にウラジオストックにおいて開催を予定している国際会議(21世紀におけるアジア・太平洋の安全保障)に参加してもらえないかという。

 添付書類として会議の概要が付いていたが、主催者がカーネギー・モスクワ・センターであり、ロシア・中国・米国・豪州・日本・韓国が参加するということ以外、その詳細については不明であった。ただ、管理事項として航空賃・宿泊費等の経費はすべてロシア持ちということであった。

 これに釣られたわけではないが、古くからの友人の打診でもあり、ロシアが開催する安全保障関係の国際会議ということに興味をひかれたので、とりあえず個人としての参加なら可能という返事を出した。その後は、カーネギー・モスクワ・センター(以下CMCと表記する)の担当者との詳細打ち合わせに入り、まず私の発表題目の調整をした。

 会議の趣旨などから「日本の海洋戦略(Japan's Maritime Strategy)」について述べるのが適当と考え、先方に打診したところOKの返事が来た。使用言語はロシア語か英語のみということなので、英語によることとして原稿を作成したが、やはり拙い英語では理解困難な面もあるだろうと考え、多国籍の聴衆の理解を助けるためにパワーポイントを使うことにした。

国際会議場(筆者撮影、以下同じ)

 様々な写真や図を使用し、英語で表記するのは私単独では時間的にも無理があるので、恐る恐る海幕指揮通信情報部長大塚将補に電話したところ、そういうことならと即座に快諾をいただいた。

 私は、既にある英語の説明資料を組み合わせていただければと考えていたが、大塚部長には、御多忙中にもかかわらず山下防衛部長とも調整されて、素晴らしいパワーポイントの資料を作成していただき、大いに感激した。

 次に出入国手続きに入ったが、これが意外に面倒だった。ロシアはビザが必要でこれの取得には行く先からの公式招待状がなければならないということであった。

 退官後の2000年と2001年に、現役時代に友達となったロシア海軍太平洋艦隊司令官ザハレンコ大将の招待により夫妻でロシアを訪問したことがあるが、その時はロシア海軍の威力によりこれらの手続きは一切不要であった。

 2000年は、当時護衛艦隊司令官であった勝山海将、2001年には退官したばかりの藤田前海幕長夫妻と一緒であった。

 CMCが送ってくれた公式招待状を持参して狸穴のロシア大使館で申請をすると、1週間後にパスポートを取りに来いということであった。OBとなってからこれまで仕事や国際会議等で数十回海外へ行ったが、自分でこのような手続きをしたのは初めてであった。

 日本からは、私のほかに河東哲夫氏(元ウズベキスタン大使)が参加されることが分かったがお目にかかったことがなく、在モスクワ防衛駐在官の新田1佐から氏のバイオを教えていただいた。

 いよいよ出発となり、10月15日午後、成田空港のはるか外れにあるウラジオストック航空の待合室にたどり着いた。飛行機は予想に反して真新しいエアバスA300で、2時間余りの飛行を快適に過ごした。ウラジオストックとの時差は2時間である。