テーブルとコンセントがあればどこでも縫合訓練が可能
BEATは心臓血管縫合訓練用の装置だ。
心臓血管(直径2ミリほど)の縫合手術は非常に難しい。血液が漏れてはならないし、通りにくくなってもいけない。血管に糸をかけて破れたら、その部分は使い物にならなくなるから、破れないように細心の注意が必要だ。おまけに血管は心臓壁に密着しているから血管が心臓と一緒に脈動する。
だから、心臓外科の先生は練習をしなければならないのだが、なかなか実物で練習するチャンスはない。練習用の材料も売られているのだが、従来のものは値段が高く、現実感がなかった。そのような現状から朴さんは安くてきちんと訓練できる装置を開発した。
まず、心臓を摸倣するのはほんの一部だけにした。今までの模型は心臓全体の模型であったり、うっかりすると人体全体の模型になっていたりする。しかし、実際の手術の時は、人体は大部分カバーに覆われており、手術の時に見えるのは心臓のほんの一部だけだ。だから縫合の練習のためには心臓のごく一部が再現されていればよい。

こうして写真3のようなモデル(商品名「BEAT」)ができた。
このモデルを使って、血管縫合基礎技術の反復練習、手術手順の確認や、訓練効果の確認を目的とした手術スキルの定量評価などが行える。その他にも、適切なYOUCAN(模擬血管)モデル(例えば、血管が極端に固い、極端に薄い、極端に厚い、極端に弱い・・・等々)を選択することで、手技の術前シミュレーションを経験することができる。
写真3の中央の黒く四角い箱が模擬心臓本体で、この箱が脈動する。この箱に血管モデルを張り付けて、上側からのぞき込んで、手術をする。脈動させるためにはバイオメタル(形状記憶合金)を応用した。バイオメタルとは、電流を流すと縮む針金状の金属である。コンプレッサーなど他の機材を必要としない。今までの脈動機構は空気動であったり、モーターで駆動しているため、音がうるさかったり、空気動であればコンプレッサーが必要だった。バイオメタルは音もしないし、コンプレッサーもいらない。大田区の中小企業、トキ・コーポレーション(社長は時枝直満氏)が持っている技術である。