日中関係はこのところ不愉快な話ばかり。そこで今回は、ちょっといい話をしよう。先週末の都内、とある就職・転職フェアに飛び入りで参加した。場所はJR飯田橋駅近く、会場にはブースが15個、参加者は1日で1000人程度。一見、何の変哲もないリクルート・イベントだ。

 参加企業名にはNTT Data、NEC、FUJITSUなどのロゴも並ぶ。どうやらIT技術者専門の就職フェアらしい。フロアの方々から日本語による「商談」が聞こえてくる。各社面接担当者と応募者との真剣勝負だが、驚くなかれ、この会場にいる人々の99%は中国人なのだ。

在日華人のための日本語による就職フェア

就職フェアの会場

 イベントの正式名称は「東京グローバル人材就職・転職フェア」。今年が第16回目の開催だそうだ。

 主催団体は日本新華僑報、1999年に創刊された在日中国人を対象とする中国語の活字媒体だ。発行部数は現在9万部あるという。

 10月18日付同紙にこの就職イベントの全面広告があった。そこには「在日中国人IT技術者、ものづくりエンジニア、外国人留学生、海外勤務希望者、新卒者(文理不問)大歓迎」などと日本語で大きく書いてある。このページ以外はすべてが中国語の新聞だというのに。

 なぜ日本語なのか。中国語で宣伝すれば、もっと良い人材が集まるだろう。「いえいえ、面接担当者と応募者の大半は中国人ですが、各社は応募者の日本語能力を知りたいので、日本語で行うのが普通です」と主催者に切り返された。なるほど、これは面白そうだぞ。

 「灯台下暗し」とはまさにこのことだ。普段は日中間の政治・経済関係にばかり目が行くのだが、この東京には実にディープな「中・中」関係がある。就職・転職を求め、オファーし、仲介する人々の大半が在日華人・華僑。こんな世界が身近にあるとは、想像もしなかった。

リーマン・ショック後

 この就職・転職フェア、2007年までは春秋、年2回開催していたという。当時参加企業数は60社もあり、応募が殺到して会場は相当混雑したらしい。リーマン・ショック以降、景気悪化で求人が減り、更に東日本大震災も重なって、最近は中国に帰る人々が増えたそうだ。

 今回の参加企業数は16社。確かに数は減ったが、売上高の合計は2007年60社の合計と遜色ないと聞いた。要するに、今も参加しているのは大手優良企業ということ。各企業は日本語を解する優秀な中国人エンジニアを真剣に探しているという。