「日本人やめたい」──昨今の政治情勢や停滞の続く経済状況から、そんなことを冗談めかして口にする人がいる。もちろん実行することはないし、実際に日本国籍から離脱することは簡単なことではない。
しかし、簡単に市民権を放棄できる国がある。米国だ。そして今年、米国の市民権を放棄する人の数が、史上最高となると予想されている。
「非国民」扱いされたフェイスブックの共同設立者
2000年以来、年間200人台から多い年でも700人台だった米国籍離脱者および永住権放棄者の数は、2011年におよそ1800人となった。2012年はそれを上回る勢いで増えているという(内国歳入庁)。
数としてはさほど多いように感じないかもしれないが、米国が二重国籍を認めていること、そしてこれまで世界で最も人気のあった国籍だったことを考えると、この変化を軽く見ることはできない。
突然この問題が脚光を浴びたのは、ある若き億万長者が「節税のため」に国籍を放棄し、シンガポールに移住したことが明らかになったからである。
エデゥアルド・サベリン氏(30)は、会員数10億人を超えたソーシャル・ネットワーキング・サービス「フェイスブック」の共同設立者の1人だ。共同設立者といっても、数年前に会社を追われ、フェイスブックの急成長に貢献することはなかった。しかし彼はフェイスブックの株式を推定4%所有していた。
彼が米国籍を離脱した後に、フェイスブックの新規株式公開があった。サベリン氏の持ち株が時価推定で38.4億ドル(ブルームバーグ推定)だと知れ渡ると、全米が彼の国籍放棄を税金逃れだと決めつけ、非国民扱いした。
キャピタルゲイン課税だけでもおよそ6億ドルの税金を支払わなければならないところを、キャピタルゲイン課税のないシンガポールに行けばその分の節税になるはずだ、というのが大方の見方だった。
個人がおよそ500億円の節税とは、あまりにも桁違いの話で現実味がないが、彼は結果的に全米から集中砲火を浴びることになった。
「引き留め策」実施でも国籍離脱者はあとを絶たず
大金持ちが国籍を別の国に移すと聞くと、たいていの人は「税金逃れだろう」と考える。しかし、サベリン氏のケースの詳細を知り、また、他の離脱者の声を聞けば聞くほど、いちがいにそうとは言えないことが分かってくる。