9月17日、CNNは元シリア国営テレビの著名な女性キャスター、オーラ・アッバスさんのインタビューを放送した。アッバスさんは2012年7月に反体制派への合流を宣言して国外に脱出。現在はパリ在住である。彼女はこう語る。

 「これ以上、嘘の言葉を語ることで、自分自身が殺人者と同じだと感じることに、耐えられませんでした」

 「それまで1年半近く離脱を決断できなかったのは、怖かったからです」

 彼女は婚約者と家族を本国に残したままだそうである。苦渋の決断だったことだろう。独裁政権の下で生きるということは、こういうことだ。

なぜか存在する「アサドは悪玉ではない」という認識

 現在、シリアで続いている内戦は、独裁政権に対する民衆の叛乱である。

政府軍と戦闘中の自由シリア軍兵士。撮影場所不明。9月13日画像公開(写真:Local Coordination Committees of Syria)

 当初、非武装の街頭デモを行っていた群衆を、アサド政権は銃弾で弾圧した。あまりにも苛酷な弾圧が続いたため、部隊を離脱し、反体制派に合流する兵士が出てきた。彼らを中心に反政府武装組織が結成され、やがてそこに一般住民の男たちも加わっていった。こうして反体制派のゲリラ部隊「自由シリア軍」が誕生し、政府軍との血みどろの内戦が開始された。

 以上が、筆者が認識するシリア内戦の基本的な構図だ。筆者は2011年3月の民衆蜂起以後はシリア国内の取材を直接行なっていないが、それなりの情報収集と分析でこのように判断している。

 筆者の情報分析の元データとなっているのは、基本的にはシリア国内に今も住む知人たち、隣国レバノン取材で出会った活動家たち、メディア業界の知人たち、さらには様々な人脈を辿ってコンタクトした地元および国外の情報源から、スカイプやeメールなどを通じてもたらされる情報で、それにSNSやユーチューブで収集した現地情報、各種メディアの報道などを総合的に突き合わせるという作業になる。ジャーナリズムでは一般的な手法だ。

 だが、こうした筆者の認識とは異なる認識に基づく、下記のような論調をときおり見かける。

 「ネットに流れる情報など信用できない。ユーチューブで流されている虐殺映像は捏造だ」

 「アサド悪玉論は欧米に創作された虚構イメージだ」

 「シリア内戦は宗派間の権力抗争。政府側も反政府側もどっちもどっち」

 「自由シリア軍や反体制派は外国の傀儡。シリア内線は外国の代理戦争だ」

 「反体制派の主流はイスラム過激派。自由シリア軍はスンニ派で、アラウィ派を殺戮している」

 大雑把に言えば、筆者がアサド悪玉論なのに対し、反体制派悪玉論を主張する声が一部にあるということだ。