1 はじめに
何を今さら、前近代的な忌まわしいものを持ち出すのかとお叱りを受けることを承知で今までタブー視されてきた軍刑法(軍法会議)について述べたい。
古来、武力組織の規律と秩序を維持するために、極めて厳しい軍律が要求されてきたことは歴史的事実であり、今日でも軍刑法(軍法会議)を司法制度の中に位置づけている国がほとんどである。“軍法会議なき武力組織は軍隊とは言えない”とも言われるゆえんである。
自衛隊は、国際法上は軍隊と見なされたとしても、国内法上は明確に国防軍(自衛軍)と位置付けられているわけではない。従って、特別の司法制度としての軍刑法や軍法会議が認められていないのだとも言える。
しかしながら、自衛隊を取り巻く諸情勢は激変した。存在するだけで良しとされた時代から、有事に機能し、国際貢献等の海外任務を適切に果たすことが求められる時代に突入した。
このような新時代に対応した軍刑法や軍法会議は如何にあるべきか、あるいはそもそも必要なのか等について愚見を述べたい。もとより法律の専門家ではないので、雑駁な論理展開になるかもしれない。諸氏の御叱正・御指導を賜れば幸甚である。
2 存在する自衛隊から行動して評価される自衛隊への変革
我が国は、1992(平成4)年6月、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(いわゆるPKO協力法)を制定し、同年のカンボジア暫定機構(UNTAC)への陸上自衛隊の派遣を皮切りに、モザンビーク、ルワンダ等々12件のPKO派遣、5件の「人道的な国際救援活動への協力」および8件の「国際的な選挙監視活動への協力」を行ってきた。
また国際緊急援助隊法(JDR法)に基づき、被災国や国際機関の要請に基づき国際緊急援助活動を行ってきた。
さらには、イラク特措法やテロ特措法、新テロ特措法に基づく人道復興支援等の活動をも行ってきた。
また、ソマリア沖やアデン湾での海賊行為から付近を航行する船舶を護衛する為に、当初は海上警備行動により、海賊対処法が成立後はそれに基づき水上部隊及び航空部隊を派遣している。
また、長年、タブーとされてきた有事法制についても、北朝鮮の不審船事件、米国同時多発テロ事件の発生などにより俄に論議が深まり、平成15年から16年にかけて、小泉純一郎内閣の下で有事法制の基本的枠組みである武力攻撃事態法をはじめとする武力攻撃事態関連3法および関連7法が成立した。
従前は、国内において災害派遣のみに従事して訓練のみをしておれば事足れりとされてきたが、国際任務の常態化があり、今なお冷戦構造を残す周辺情勢に真に対応し得ることが求められるようになった。すなわち、行動して評価される時代になったと自他共に認識するようになったのである。
しかしながら、自衛隊の憲法上の明確な位置付けや集団的自衛権と共に置き去りにされたものが軍刑法に関する態勢整備である。