ニッケイ新聞 2012年6月15日~19日 

 日本食ブームと言われて久しい。高級なものからテマケリアといった手軽なものまで広がり、2006年にはブラジルの伝統料理を供するシュラスカリアの数を日本食レストランが超えた。名実共に「市民権」を得た格好だが、本場のものとはほど遠いのが現実。

 そんななか、醤油の老舗メーカー『キッコーマン』、日本で最大の店舗数を誇る牛丼チェーン店『すき家』、岩手の蔵元『南部美人』がブラジルを次世代の巨大マーケットと捉え、“正しい”日本の味を伝えようと奮闘している。

 それぞれの代表にブラジルゆえの難しさ、今後の展望などを語ってもらった。(構成・本紙編集部)

――「キッコーマン」の世界戦略では、非醤油圏と醤油圏に分けると聞きました。ブラジルは西洋文化圏ではあるけれども、日系人が多いがために醤油文化、もちろん酒文化もある。お米も食べる。非常にカテゴライズしにくいのでは。

 当初、進出した時は、目玉焼きに醤油をかけて試食デモをしたり、現地の味に近い商品を開発したり、いろいろ試行錯誤を重ねたのですが、値段もそこまで安くならない。

――ブラジル産の醤油の味を真似ようとした。

 だけど近づければ近づくほど逆に、オリジナルの方が美味しい(笑)。その辺の葛藤があってうまく行かなかった。より現地に合ったものをと考えた“変化球”のちょっと甘いのがキッコーマンのオリジナルの味として特に日系社会に一時認知された。そこで今一度原点に帰ろうと考えた。

 例えばアメリカでの調査では、やはり歴史が短いせいか保守的なものがないので、何か新しいものを出せば割とすぐ飛びついてくれる。ステーキやバーベキューに醤油を使ってもらうと、バケツ一杯に醤油を入れて肉を漬け込む。焼いた後は捨てる。簡単に日本人一人の1カ月の使用量、1リットルくらいを軽く超える。

――さすがアメリカ、豪快ですね。

 そこで、完全に現地に特化した提案をした。日本食より、チャイニーズやアメリカレストランに使ってもらう。そうするとアメリカ人が醤油をソースとして使って、その結果バリエーションが増えて、家庭に入るようになった。現在、アメリカの食卓の既に50%強には醤油がある。

――それは驚きです。半数を超えている。

 一方、ヨーロッパでは歴史があるせいか、向こうの料理に使おうとして勧めても中々使ってくれない。むしろオーソドックスに外来の日本食をというものを伝えて行きながら、少しずつ変わる部分も含めて寿司、刺身から入った。