米中のせめぎ合いがますます複雑になる中で、オバマ政権の中国の軍事力拡張への対応に意外な弱点があることが露呈した。この弱点は、日米同盟を通じて日本の安全保障にも大きな影を広げそうである。
中国の軍事力が右肩上がりに増強されていく現実は、どうにも否定できない。その大規模な軍拡は米国や日本にとって少なくとも潜在的な脅威であることも、否定は難しいだろう。
中国の軍事力を脅威にしがちな要因の1つは、その軍事態勢の秘密性にある。不透明性と言ってもよい。どんな新兵器が配備されるのか、どんな新しい戦略、戦術が採用されるのかなどが、外部からはまったく分からないのだ。
ある朝、起きてみたら、中国人民解放軍がまるっきり新しい強力な戦闘機や潜水艦を保有していたという事態があり得るのである。秘密主義を貫く共産党独裁システムの特殊性でもある。新兵器や新戦略の輪郭を事前に公表する民主主義の米国や日本とは根幹が異なるのだ。
となると、中国の軍拡の影響を受ける側にとっては、その実態をどう把握するかが切迫した課題となる。なにしろ人民解放軍の動向は中国国民に対してさえ秘密のベールに覆われているのだ。中国政府が発表する国防費というのは、実際の軍事費の3分の1ほどにすぎない。だから外部からの情報収集は独自の手段によらざるをえない。
タイトルが薄められた今年の報告書
この情報収集能力を最も高い水準で保持しているのは、やはりスーパーパワーの米国である。そのための情報機関、というよりも諜報機関としてはCIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)、DIA(国防情報局)など巨大な組織が常時、機能している。
中国領内の地表の動きや温度の変化まで即時にとらえる種々の人工衛星、中国内部の軍関連の通信や信号を捕捉する傍受システム、偵察機で中国領土外ぎりぎりを飛んでの直接の監視作戦、中国内部にスパイを送りこんでの従来の人間諜報活動・・・などという手段の情報収集である。
米国の政府機関が得た中国軍関連の情報は、国防総省が毎年作成する「中国の軍事力報告」として総括される。報告は公表され、議会に送られる。
もちろん秘密の部分と公開の部分とに分かれるが、公開分だけでも、兵器類や戦略、戦術を極めて具体的に明らかにしている。国際社会でも最も頼りになる中国軍の実態報告だと言えよう。日本の防衛政策を考える際に、まず懸念せねばならない中国の軍事パワーの現状について、最も有力な資料となるのがこの米国防総省の報告なのだ。