中国共産党における最強の権力者組織が「党中央政治局常務委員会」であるとすれば、人民解放軍におけるそれは「中央軍事委員会」である。
人民解放軍は国軍ではなく共産党の軍隊だから、「党が鉄砲を指揮する」原則は徹底されており、その証左は中央軍事委の主席に党の最高実力者を据えてきたことである。毛沢東は死ぬまでこのポストを手放さなかったし、鄧小平も1989年秋に江沢民党総書記に譲るまで、すなわち最後まで握り続けたのがこのポストだった。
2012年秋に予定される第18回党大会で、党総書記のポストが胡錦濤から習近平に移譲されることは既定の路線となっている。しかし、中央軍事委主席のポストも移譲されるかどうかは、いまだ不透明なままだ。
もし胡錦濤が中央軍事委主席に留任すれば、党のトップである習近平が中央軍事委では副主席のままということになり、「党が鉄砲を指揮する」原則はゆがめられてしまうことになる。
これには「前例」があり、2002年の第16回党大会で江沢民が総書記のポストを胡錦濤に移譲したにもかかわらず、2004年まで中央軍事委主席に居座ったことがある。胡錦濤はこのために軍の掌握が遅れ、江沢民の影響力が色濃く残る中で苦労したものと思われる。
そうした苦労を習近平にも味わわせようとする意図が胡錦濤にあるかどうかは分からない。しかし、胡錦濤の主席在位期間はまだ8年であり、連続2期10年の任期満了まであと2年を残している。その意味では留任の資格は十分ある。
また、薄熙来失脚事件で、彼に近いとされた軍人もいたことから、この事件は人民解放軍にも動揺を与えることとなった。その意味においても、軍の安定を重視する観点から、胡錦濤が主席に留任する可能性はむしろ高まったと見ることができる。
「副主席」になる2名は誰か
中央軍事委員会の制服組メンバーは、現状通りであるなら、「副主席」2名、委員として「国防部長」、いわゆる「四総部」のトップ(「総参謀長」「総政治部主任」「総後勤部長」「総装備部長」)、そして海軍、空軍、第2砲兵部隊の各「司令員」という計10名である。
党中央人事の原則に合わせて党大会開催時点で68歳に達する者の再任はないとした場合、現在の10名のメンバーの中で留任するのは、常万全・総装備部長、呉勝利・海軍司令員、許其亮・空軍司令員の3名ということになり、7名が新任となる。