5月7日に首相職から大統領職に復帰したウラジーミル・プーチン大統領は、復帰早々、重要な意思決定を公けにした。今週末に米キャンプ・デービッドで開催予定のG8への出席取りやめである。
5月9日、バラク・オバマ米大統領と電話で会談したプーチン氏は、大統領就任後の新体制確立のために国を離れることができないとして、自身の代わりにドミトリー・メドベージェフ首相をG8サミットに派遣すると伝え、オバマ氏もこれを受け入れたという。
直近の報道によれば、ロシアにおいて初めて開催される、プーチン大統領自身、大変な肝煎りのアジア太平洋経済協力(APEC)ウラジオストク会議(本年9月開催予定)にオバマ大統領が11月初に行われる米大統領選直前の準備を理由に参加できないとすでに伝えていたというから、オバマ大統領も承諾せざるを得なかったのであろう。
1.国内体制固めが必要なのに、メドベージェフを派遣する矛盾
通常、外交の現場では両国間の面子や格の対等が重視されるから、ただでさえ複雑な関係にある米国との間で、オバマが来ないなら、こちらも行かないという判断は至極当然のもののように思える。
しかし、今回の出来事はより多面的に分析してみると、現在のロシア外交の位置づけや方向性も見えてくるように思えるのである。
例えば欠席の理由として挙げた国内体制固めとは具体的には新内閣の人選である。内閣は通常、首相が決定すべきものであり、大統領が直接判断を下さなければならないものとは、考えられない。
しかし、プーチン氏は首相が提出した組閣案の候補を個人的に面談して良し悪しを決めるという。ここから分かることは、新たなプーチン体制を築くのに、大統領自身がかなり神経を使っているということであろう。
以前のプーチン大統領であれば、首相に課題を与えて、これをうまく達成できなければ首相を解任するということで政策不履行のスケープゴートにすることができた。
しかし大統領自らが首実検を行うのであれば、プーチン+メドベージェフの新たなタンデムは、任命責任において一心同体のものとなる。
これはメドベージェフ前大統領が事実上、プーチン前首相を、失政を理由に解任できなかった前のタンデムと同じで、プーチン大統領はメドベージェフ首相を解任できない状況になるとも言える。
一方、巷の噂では、メドベージェフ首相を外遊に追いやっておいて、メドベージェフ派と異なる人選で内閣を固め首相の実権を骨抜きにしようと大統領が考えているという解説もある。しかしこの説は少々、穿ちすぎではないか。
プーチン氏とメドベージェフ氏の真の関係は部外者にはなかなか見えにくく、とりわけ両者の齟齬の兆候が少しでも表れると、大袈裟すぎるほどニュースに取り上げられるが、現在のプーチン大統領には、メドベージェフ内閣を失政に追い込んで早く退陣に追い込み、失脚を謀ることができるほどの余裕はあるまい。
また、そもそもメドベージェフ氏に代わる適切な首相候補がいるとも現時点では考えられない。