ロシアにおいて、旧ソ連時代の社会主義とスターリンへの評価がようやく固まったようだ。いずれに対しても、その評価は否定的なものである。

 5月9日、モスクワでドイツとの戦争(独ソ戦争)の戦勝65周年を祝う式典が挙行された。正確な数字は今でも不明だが、ソ連はあの戦争で大変な犠牲を払った。独ソ戦争の勝利を祝う式典は、ロシアにとって極めて神聖なものである。

 当時のソ連の指導者はスターリンだった。独ソ戦をどう評価するか、そして戦時中のスターリンの役割をどう評価するか。それは単に歴史的な認識だけにとどまらず、今のロシアのあり方と今後の民主主義の将来を左右する重要な問題である。

スターリンの功績を評価していたプーチン

 1991年の反共革命とソ連崩壊後、ロシア人の過去の歴史に対する心境は矛盾に満ちたものだった。政府の立場も固定することはなく、揺れ続けていた。エリツィンの時代は社会主義とスターリンを全面的に否定していたが、プーチン時代になって、もっと「バランスの取れた」立場に変わってきた。

 その背景には、プーチンが縦割りの権力システムを強化し、「強いロシア」の実現を目指したことがある。

 プーチンはスターリンの中に「悪」と「善」の両方を見出そうとして、独ソ戦に勝利したスターリンの功績を評価していた。

 また、プーチンは欧米を挑発するかのように、スターリンの偉大さをほのめかす発言を繰り返した。NATO(北大西洋条約機構)本部のロシア代表としてプーチンに任命された国粋主義者のドミトリー・ロゴージン氏は、自分の書斎の壁にスターリンの写真を掲げていた。

メドベージェフは「国民に対して罪を犯した」と糾弾

 メドベージェフ大統領の立場は、プーチンとは違うように見える。彼は過去の歴史を「悪」と「善」で単純に色分けする人間ではないが、社会主義とスターリンに対しての評価は厳しく、否定的である。

 5月7日、メドベージェフは新聞のインタビューで、「ロシア大統領」の立場として次のように答えていた。

 「率直に言って、旧ソ連は全体主義に染まっていたと言わざるを得ない。残念なことだが、全体主義の制度の下で国民の基本的人権と自由が押しつぶされた。この圧迫はソ連人だけではなく、社会主義陣営の他の国に対しても行われていた。この事実を歴史から消し去ることはできない」

 メドベージェフはスターリンに対しても、次のように批判する。

 「戦争中にスターリンが果たした役割がどうあれ、現在のロシアから見ると、スターリンは当時の国民に対して山ほどの罪を犯した。彼がよく働き、彼の指導の下で国家が発展したことは事実だが、彼の国民に対する犯罪を容赦することはできない・・・スターリンへの評価は人それぞれであってもいいと思うが、ロシアとして、そしてロシア大統領としては否定的な評価をせざるを得ない」