「縁故採用」が話題になっている。NHKは2月3日のニュースで、「東京の老舗出版社『岩波書店』が定期採用の応募資格について、『岩波書店の著者や社員の紹介があること』と明記し、いわゆる『コネ』を条件にしていることが分かりました」と伝えている。

 この件に関しては、「コネ入社は許せない」とネットを中心に岩波書店への批判が集中した。厚生労働省でさえ問題視しているようで、先のNHKニュースは次のように伝えている。

 「厚生労働省は、『コネを条件にした募集方法は聞いたことがない』として問題がないかどうか調べることにしています」

 しかし少数派ではあるが、「何が悪いのか」という意見もある。コネ入社など、どこにでもある話で、いまさら問題にすることでもない、というのだ。

 確かに、コネ入社など珍しいことではない。岩波書店の事例で厚生省が驚いたようなコメントをしていることの方が、むしろ不思議なくらいだ。

 古い話になってしまうが、航空会社の人事担当者に採用の実態を聞いたことがある。航空会社の人気職種と言えば、やはり客室乗務員だ。不景気で採用枠が小さくなり、どんどん待遇も悪くなっているというのに、人気は衰えていないという。

 その客室乗務員の採用では、採用担当者たちが「ゾンビ」と呼ぶ存在があるという。1次試験で落としたはずなのに2次試験に参加してくる、というのだ。2次で落としても、3次試験に登場してくる。死んだはずなのに生き返ってくる、だからゾンビというわけだ。「もちろん、コネを使って合格させてもらうわけです」と、その採用担当者は言った。

 航空会社に限らず、こんなことは、どんな企業にも程度の差こそあれ、あるに違いない。もっと露骨な例だってゴロゴロしているはずである。

 経営者の2世、3世の場合などコネ入社の典型と言っていい。入社試験もなしに入社し、それでいてとんとん拍子に出世していくのだから、すごい。それを厚生労働省が問題視したなどという話は、寡聞にして耳にしたことがない。

能力の低い人間を押し込んだかつてのコネ採用

 それでいて、岩波書店の場合には「とんでもないこと」といった反応を厚生労働省も世間も示しているのだ。

 こうした反応は、これまでの日本企業がやってきた採用への「誤解」が原因になっているのではないだろうか。日本的経営に対する誤解、である。

 新卒者の採用は4月の一括採用が日本における常識になってきていた。それが、日本的経営である。