台北の松山空港に着いたのは1月13日の昼過ぎだった。羽田を出発して4時間ほどで着いた。タクシーの中で、筆者が1976~77年に短期間下宿していたアパートが空港近くにあったことを、ふと思い出した。空港南側の街並みは一変し、当時の面影はほとんど残っていない。

 総統選挙の結果は日本でも大きく報道された。選挙前は大接戦が伝えられたが、結果は予想を超える80万票差だった。馬英九の順当勝ちということだろう。

 選挙結果の分析については別途書いたので、ここでは日本のメディアが報じなかった米中両国の静かな「選挙介入」について考えてみたい。(文中敬称略)

元AIT所長の迷言

台湾総統選、馬英九氏が再選

再選を決め、支持者を前に勝利演説する馬英九総統〔AFPBB News

 空港からホテルに直行し、部屋に着くなりテレビのスイッチを入れて驚いた。地元の中天電視台(CtiTV)の選挙番組で、顔馴染みの米国人のインタビューが放映されていたからだ。

 この知人はダグ・パール(Douglas Paal、包道格)、レーガン、父親ブッシュ両政権でアジアを担当した中国専門家である。

 息子ブッシュ政権時代には2002~2006年、台北にあるAIT所長(Director of American Institute in Taiwan、事実上の米国大使)を務め、現在はカーネギー国際平和財団にいるはずだ。共和党系の中国専門家の中でも、より大陸に近いと噂される論客だが、筆者も個人的に知っている。

 彼のインタビュー内容を聞いてさらにびっくりした。「『1992年コンセンサス』が台湾を売るとは考えない。『台湾コンセンサス』はあまりに曖昧であり、米中とも受け入れていない・・・・」

 筆者の最初の反応は「おいおい、ダグ、そんなこと言って大丈夫なのか」だった。案の定、この発言は台湾で大問題となる。

 翌14日(投票日)の台湾主要紙はいずれも1面でこの発言を報じていた。国民党系有力紙が「包道格:馬若連任、美中台鬆一口気(ダグ・パール:馬英九再任なら米国、中国、台湾ともに安堵)」と書いたのに対し、民進党系紙は「国民党はパール発言を総統選挙に利用しようとしている」などと強く反発した。