「売家と唐様で書く三代目」という川柳がある。初代が苦労して起こした事業を2代目が引き継いだものの、苦労知らずに育てられた3代目が教養だけは身につけながら、事業に身を入れず潰してしまう様を皮肉ったものだ。

 金日成が築き上げた北朝鮮における独裁体制は、それを引き継いだ2代目の金正日の死去によって3代目となる金正恩にバトンタッチされる。果たして金正恩の後継作業は成功裏に進むのだろうか。

韓国、中国もロシアも北朝鮮の体制崩壊を望んでいない

 金正日総書記の突然の死去によって、金日成死去の1994年当時と同様に、北朝鮮の体制崩壊シナリオがさも現実味があるように語られている。

 政治経験がほとんどない金正恩の後継がうまくいく保証はないし、後継をスムーズにするために2010年のように韓国哨戒艦「天安」の撃沈事件や韓国延坪島への砲撃事件など、金正恩の後継者としての実績作りが今後も繰り返されるようなら、北東アジアの平和と安定はおぼつかないことになる。後継作業が行き詰まり、暴発する可能性も排除できないかもしれない。

 しかし、1994年の当時も今も変わらない現実として、北朝鮮と国境を接する韓国、中国、ロシアのいずれも、北朝鮮の体制崩壊を望んではいない。

 韓国は北朝鮮にいる2300万の極貧同胞を抱え込むだけの国力がない。建前では「統一は民族の悲願」としながらも、本音では北朝鮮を併合する形の統一に強い抵抗がある。ロシアは極東の政治変動に影響を受けることは少ないながらも、中国が北朝鮮の政情不安に乗じて関与を深め、北東アジアでの影響力を拡大することを懸念する。

 陸上で長い国境を接する中国は、北朝鮮の体制崩壊に伴う大量の難民流入という恐怖もさることながら、人口7000万を超える強力な統一朝鮮が北東アジアに出現し、しかも統一朝鮮が米国との同盟関係を維持したままであることによって、米国の軍事的影響力が陸上国境に及ぶことを警戒せざるを得ない。

 また、その場合の統一朝鮮は民主主義体制になるわけであり、それが中国国内に及ぼす「悪影響」をも勘案しなくてはならない。中国にとっては、朝鮮半島の民主化はとりわけ「悪夢」であろう。米国とその同盟国・友好国による「中国包囲網」も脅威だが、民主主義国家によって包囲されることも同様に脅威なのである。ミャンマーの「民主化」が中国を裏切る形で進行したことも中国の懸念を高めている。

 そうであるとするならば、周辺諸国は北朝鮮の「現状維持」で利害が一致する。

 しかし、利害が一致するとはいえ、北朝鮮の体制維持のために積極的な関与を行うことができるのは中国しかない。現実に、北朝鮮の必要とするエネルギーの9割は中国からの供給であり、中国が積極的に動かなければ北朝鮮の体制は持たないという現実がある。