4月7日、中央アジアにある旧ソ連の共和国キルギスで、数百人の死傷者を出す政変が起きた。反政府勢力が暴動を起こし、警官隊と衝突。野党支持者が政府省庁や国営テレビ局を占拠し、「臨時政府」を打ち立てたのだ。

 石油・天然ガスなどの資源があるわけでもなく、人口は550万人程度。そんな小国で政変が起きても、あまり世界の注目を浴びるはずはない。だが、キルギスは特別だ。

 キルギスは、米国、ロシア、中国の3カ国の思惑が交差する、地政学的に極めて重要な国である。キルギスがこれからどう変わっていくのかは、見過ごせない問題だ。

中央アジアでロシアに最も身近な存在

 ソ連崩壊後、ロシアは国境周辺で急速に足場を失いつつあった。EU諸国、独立を宣言したバルト3国は言うまでもなく、伝統的にロシアとの結びつきが強かったウクライナ、モルドバ、ベラルーシなどとも緊密な関係の維持は難しかった。

 一方、中央アジアではロシアの求心力がまだ残っていた。中央アジア諸国にとって中国は決して親しみやすい存在ではなく、警戒心の方が強かった。

 中央アジアでロシアに最も身近な存在はキルギスだった。人口の約13%はロシア人。中央アジアで、キルギスよりもロシア人の割合が多い国はカザフスタンだけである。また、ロシア語が公用語として認められているのはキルギスとカザフスタンだけだ。

 キルギスの経済はロシアへの依存度が高い。政治家や文化人を見ても、ロシア語の普及率が高い。2008年6月に亡くなったキルギスの小説家、チンギス・アイトマートフは、自分の作品をキルギス、カザフスタンとロシアの3つの言葉で書いていた。

米軍によるマナス飛行場使用を認めたロシア

 しかし、ロシアからの支援に頼り切っていたキルギス政権は政治・経済の改革に消極的で、腐敗の道をたどっていた。1990年から政権を掌握していたアカエフ大統領は、汚職と無為無策ぶりが国民から糾弾され、2005年にクーデター(「チューリップ革命」と呼ばれる)によって倒された。

 2005年7月に当選したバキエフ大統領は、結局、同じ道をたどって腐敗した。わずか5年間足らずで、またクーデターによって倒されたのである。

 バキエフ政権はクーデター前から危機的な状態に陥っていたが、モスクワはまったく救いの手を差し伸べていなかった。汚職がはびこり、まったく信用するに値しない政権になっていたからだ。

 2009年初頭に、ロシアはキルギスに21億ドルを融資すると決定していた。その内の17億ドルが水力発電所建設のための費用であった。また、約2億ドルは、ロシア海軍向けの水雷製造工場「ダスタン」の株を48%取得するためだった。