「お家物」と分類される1つのジャンルがあるほど、歌舞伎には「お家騒動」を扱った作品が多い。伊達騒動の「伽羅先代萩」、加賀騒動の「加賀見山旧錦絵」・・・。こうした人気の演目では、客席からは毎度のことながら大きな掛け声と拍手が飛ぶ。

 しかし、華やかな衣装をまとった歌舞伎役者が演じるからこそのお家騒動である。現実のこととなると、おぞましいばかりでやはりいただけない。しかもその舞台が日本を代表するIT(情報技術)企業というのだから、ほとほと悲しくなってくる。野副州旦元社長の辞任をめぐる富士通のお家騒動である。

コロコロ変わる社長交代理由、呆れ果てた東証社長

富士通、国内社員10万人に自社製品の購入呼びかけ

「解任」された富士通の野副州旦元社長(参考写真)〔AFPBB News

 2010年3月以降の展開は驚きの連続だった。2009年9月25日付で社長職から退いた野副氏。まずは、その野副元社長が会社側に辞任の取り消しを求める文書を送っていたことが明らかになる。

 会社側の説明では「病気療養」を理由に野副氏自ら社長辞任を申し出たはずだったが、野副氏側に言わせると全くのデタラメ。辞任は他の役員から迫られた不当なものであり、即刻取り消すべきだと迫ったわけである。こうして、富士通「お家物」は幕を開けた。

 会社側も黙ってはいない。野副氏の辞任取り消し要求を受け、辞任後に相談役の職にあった野副氏をすぐさま解任。併せて、「病気療養」としていた野副元社長辞任の理由を「好ましくない風評がある企業グループと関係があったため」と改め、事実上の解任だったことを認めた。

 それにしても社長交代の理由がコロコロと変わるなんて、あり得ない話である。少なくとも大手の企業では聞いたためしがない。前代未聞と言っていい事態に、多くの人が耳を疑ったことだろう。

 こうした富士通の対応には、東京証券取引所の斉藤惇社長も呆れ果てた。3月下旬に開かれた記者会見で、同氏は「富士通は名の通った一流の上場会社であり、世界に株主がいる。十分に説明すべきだ」と苦々しげに語っていたが、至極ごもっとも。この発言を一つのきっかけに、お家騒動は収束に向かうかと思いきや、期待はあっさりと裏切られた。