1 米軍事戦略の旋回軸

米軍がイラク撤退を完了、開戦から9年近く

12月18日、イラクに駐留していた米軍最後の部隊がクウェート国境を渡り撤退を完了した(写真は国境を渡り手を振る米兵士)〔AFPBB News

 米国は最近、旋回軸あるいは要点を意味する「Pivot」という言葉をしきりに使う。似た意味合いで、「Keystone(要石)」あるいは「Cornerstone(隅石)」という語を、日本、特に沖縄に対して使う例が長く続いていた。

 後者が、大陸に睨みを利かせる扇の要を意味するのに対し、前者は戦略の大きな転換(旋回)を示唆し、地域としての太平洋・インド洋、そしてその旋回軸としての東南アジアを感じさせる。

 米国の軍事戦略は、大幅な財政赤字による国防予算の縮減、アフガニスタンを含む中東での軍事的混迷、および中国など新興大国の軍事力増強を受け、大きな岐路に立っている。経済の低迷で人気に陰りの見えるバラク・オバマ政権への共和党の政治攻勢がこれに拍車をかけている。

 戦略の転換方向は、「アジア太平洋重視」だが、その視野に中国が好悪両面で大きく屹立している。

 従来、中国が米国益に大きく絡み、特に2000年以降、世界に責任を持つ期待感から主に対話を通じ「責任ある利害関係者(Responsible Stakeholder)」になることを促してきた。

 しかし、COP(締結国会議)15におけるオバマ大統領と温家宝首相との実りのないやり取り、元の切り上げに対する非協力的な姿勢、一方的で不透明な軍事力強化、東・南シナ海での力を背景にした強い自己主張、あるいは国内の人権問題やチベット問題に対する強圧姿勢を見るに至って、対話主体には限界があると、力をより前面に出す方向に転じた。

 その戦略は、中国との経済的な相互依存関係が極めて深いので、冷戦時代にソ連に対したような「封じ込め(Containment)」ではなく、あくまでも動かぬ「垣根(Hedge)」で進出を抑制するとともに、軍事と外交を併用し「不透明な軍事力の拡大をそれ以上進めず、責任ある利害関係者になれ」、そして「世界標準へ統合(Integrate)せよ」と促すものである。

 封じ込めは包囲環を徐々に狭める攻撃的戦略であるが、だからこそそれと異なる共存を前提にした防御的なヘッジ戦略を取ろうとするのである。

 中国を世界標準に関与させ、Win-Winの関係を構築しようとするこの戦略は、方向性において間違っていない。

 しかし、豪州ダーウィンへの海兵隊の配備、ミャンマーへの政治的接近、沿岸戦闘艦のシンガポール配備に見られる南シナ海問題への介入などを、急速かつ一挙に進展させることで、中国にはあたかも封じ込めに見え、また周辺諸国に不必要な米中対立になると懸念する声も聞かれるようになっている。

 さらなる問題は、この戦略転換が、必要で十分な資源投資を保証するものでなく、また大局的で長期的な国家戦略というよりも、次期大統領選を強く意識した政治的意味合いもあることであろうか。