欧州危機は周辺国からついに中核国に波及、イタリア国債金利は7%の危機水準に高まり、フランスにも伝染し始め、ユーロの崩壊と世界不況再来が真剣に心配されている。

 もっとも危機の原因と処方が明確なのに、みすみす恐慌への落ち込みを容認してしまうほど、政治と市場が愚かであるとは思われない。危機は不適切な事情によって成長が阻害されていることによって起きているのであり、成長阻害要因が取り除かれることで「将来の成長が可能となる」展望が開かれる。危機こそは将来の成長基盤を整えるチャンス(危機=好機)でもある。

 ユーロの最大の成長阻害要因となってきたのは、「ユーロ圏同一金利の成立による金融不全」であった。

 一般的にはユーロ危機の原因は財政赤字と捉えられている。だが、その放漫財政を許した根本原因は、金融市場が適切な資源配分を果たしてこなかったという機能不全にある。過去10年間、資本は高インフレ、高成長、低生産性、財政節度の緩い南欧に向かって一方向に流れ、バブルを作っては資本を浪費させ、域内不均衡を増長させた。

トリレンマの罠にはまったユーロ

 過去10年間、ユーロ圏はいわゆる「国際金融のトリレンマ」に陥っていた。

 図1に見るごとく、1999年のユーロ発足まで相当程度の幅があったユーロ圏各国間の長期金利格差は、2000年から2008年にかけて完全に消滅し、ユーロ圏内同一金利(長短ともに)が成立した。

図1 欧州各国長期債利回り、出所:ブルームバーグ、武者リサーチ