現代はいかなる時代であろうか? 大規模地震の切迫性が叫ばれ、隣国は核実験や我が国上空を飛翔するミサイルの発射を繰り返し、SARS(重症急性呼吸器症候群 )や新型インフルエンザの流行・パンデミックの危険性もあり得る。地下鉄サリン事件や9.11米国同時多発テロ等と類似の事件も惹起しないという保証はない。

危機が多様化している現在、我々の危機管理は適切か

 また、大規模事故や事件も頻発し、一部の者による不祥事が会社の存続を危うくしたり、最悪の場合には倒産するという事態も記憶に新しいところである。また、従来には考えられなかったIT、サイバーテロ等に関する目に見えない脅威も顕在化しつつある。

 このような多様な脅威に直面し、さらされている新しい時代にあって、我々の危機管理は適切になされているのだろうか?

 危機管理の重要性が叫ばれ、逐次に各種の施策が為されているとはいえ、決して完全ということはない。常に、顧みて問題点を摘出して改善するという不断の努力が重要である。

 本論では、以上のような問題意識の下、危機管理についてその全体像を整理し、危機管理の要点、ポイントは何かを論じるものである。すなわち、小生の危機管理対応組織での三十数年の経験を踏まえ、「危機管理の要諦」を読者諸氏の参考に供しようとするものである。

1. 危機管理の概念

 危機事態に対処するための一連の対処方策が、日本語で言う「危機管理」である。しかしながら、危機管理の対象とする時期的な範囲をいかに捉えるかにおいて、2様の考えがある。

 リスクマネジメント(Risk Management)とクライシスマネジメント(Crisis Management)である。日本では、この両者を共に「危機管理」と称していることも多いが、実は、「Risk」と「Crisis」の字義の違いにより、範囲が異なる。

 Riskは、辞書によれば、危険、冒険と訳される。今後発生が予測される異常な事態という意味合いが強い。一方、Crisisは、辞書によれば、危機、重大な局面であリ、現実に発生している異常な事態という意味合いが強い。これらから、「リスク」は「発生の予測される危機」、「クライシス」は「発生した危機状態」という使い分けが一般的らしい。

 つまり、「リスクマネジメント」は「予防処置」の意味が強く、より広範囲であり、広義の危機管理とも言える。「クライシスマネジメント」は「緊急事態対応処置」の意味が強く、狭義の危機管理であると言えよう。

 クライシスマネジメントは事態発生に伴う当面の対策・対応を扱うが、リスクマネジメントはそれよりは広い範囲を対象とし、事態発生の予防策を含み、将来対応まで含んでいる。この関係を図示すれば次の通りである。

 本稿で取り上げる危機管理は、広義の危機管理であるリスクマネジメントである。