ケータイ先進国~日本。しかし、携帯電話の契約加入数は既に1億を突破し、人口普及率が90%に近づいている。まさに「1人1台」の時代を迎え、モバイル市場はもはや「右肩上がり」から「成熟期」へと舵を切り始めた。新規顧客の獲得が次第に難しくなり、パイ全体を広げるというより、むしろパイの分け前を奪い合うサバイバル競争が続いている。そこに登場してきたのが、MVNOという名のビジネスだ(本稿中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解であるとお断りする)。

 MVNOとは何物か? これは Mobile Virtual Network Operator の略。簡単に言えば、基地局や通信回線など無線ネットワークを持たない携帯会社のことだ。

 現在、日本国内で無線ネットワークを保有する携帯会社は5社だけ(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコム)。これは電波資源が有限希少であり、誰にでも割り当てるというわけにいかないからだ。

 しかし、電波資源が国民共有の財産である以上、この5社しか電波を使えないという状況は望ましくない。そこで生まれてきたのがMVNOの発想だ。携帯会社から無線ネットワークを借り、付加価値の高いモバイルサービスを提供するプレーヤーが多数登場してくれば、モバイル市場は新たな成長トレンドを描くことができる。

 欧米市場でMVNOの代表的な成功例として挙げられるのが、英国バージンモバイル(Virgin Mobile)。リチャード・ブランソン氏率いるバージングループの一員はドイツ系の携帯会社T-mobileのネットワークを借り、1999年にMVNOとしてモバイルサービスの提供を始めた。若者に訴求する「バージンブランド」を武器に、400万超の契約者を獲得している。

 米国でも面白いMVNOが登場した。例えば、ジッターバグ(Jitterbug)。この会社は高齢化するベビーブーマー世代に照準を合わせ、「使いやすさ」をアピールするCMで顧客を獲得している。

http://jp.youtube.com/v/TNdw4CfbwQg

[動画]Jitterbug Cell Phone for seniors

 ジッターバグが提供する「One Touch」という携帯端末は、ボタンが3つしかない。「911」(緊急通報)、「My Choice」(家族や友人などの登録番号)、「Operator」だけなのだ。例えば、契約者が携帯端末の「Operator」ボタンを押すと、オペレーターが発信者の名前をスクリーン上で確認しながら、「ジムさん、こんにちは」と答えてくれる。契約者が「娘のジェーンにつないでもらえますか」と頼めば、電話を掛けてくれる。だから、高齢者が目を細めながら細かいボタンを打つ必要はない。

 その一方、米国ではディズニーのスポーツ専門局ESPNがMVNO事業から短期間で撤退するなど、市場で明確な事業モデルが確立しているとは言いがたい。

 こうした欧米の状況を踏まえ、「日本でもMVNOビジネスはうまくいかないだろう」という意見も聞かれる。しかし、欧米と比較すると、モバイル市場の構造が大きく異なるため、日本にはMVNOの成長する芽があると言ってよい。