日本の中小・ベンチャー企業が多く上場する新興市場で、空洞化の危機が迫ってきた。投資家が離散して売買低迷に歯止めが掛からない上、貴重な優良企業は成長著しいアジアの各取引所に奪われかねない状況。「新興市場が活性化しない国に未来はない」(松本学ジャスダック証券取引所社長)のは確かであり、取引所の自主的な取り組みだけでなく、国家戦略が厳しく問われている。
2010年3月中旬、野生動物の国際取引を規制するワシントン条約の締約国会議がカタールの首都ドーハで開かれた。「乱獲によって絶滅の恐れがある」として大西洋産クロマグロが規制対象になりかけ、日本人の好きな「トロ」が食べられないと大騒ぎが続いた。
だが日本経済に目を移すと、別の「絶滅危惧種」が見えてくる。新興市場という「海」から、新規上場企業という「魚」が急速に姿を消しつつあるのだ。
日本には、多くの中小・ベンチャー企業が上場するジャスダック証券取引所のほか、東証「マザーズ」、大証「ヘラクレス」(旧ナスダック・ジャパン)、名古屋証券取引所「セントレックス」、福岡証券取引所の「Q-Board」、札幌証券取引所「アンビシャス」と、合わせて6つもの新興市場が存在する。
何れもITバブル全盛期の2000年前後に相次いで設立された。また、2009年には東証がロンドン証券取引所と合弁で「TOKYO AIM」を立ち上げ、日本やアジアの成長企業の上場を目指している。
ジャスダック、マザーズ、ヘラクレスという新興市場「御三家」の新規上場企業数を見ると、ITバブル絶頂期の2000年では157社を数えていた。
ライブドア・ショック以降、激減した新規上場企業
だが、ライブドア・ショックをはじめ新興企業の不祥事が頻発した2006年から、新規上場企業数は急速に減少。2007年は97社と初めて3ケタを割り込み、2008年は金融危機の影響で40社、2009年は13社にまで落ち込んだ。2009年は東証1部と2部を加えた日本全体でも19社にすぎず、鳴り物入りで始まった TOKYO AIM でも上場第1号は出ていない。
2010年は4月1日の第一生命保険のような大型上場が予定されているものの、それでも件数では日本全体で30社程度にとどまる見通しだ。
上場企業の相次ぐ不祥事と金融危機のダブルパンチで投資家が離散してしまい、新興市場の時価総額は激減。2009年末時点でジャスダックの時価総額8兆3397億円と、ピークの2005年末から57%も減少した。マザーズは79%減の1兆4838億円、ヘラクレスも同84%減の7142億円にまで落ち込んでいる。