2010年10月28日。関西独立リーグ(KANDOK)の「神戸ナインクルーズ」が解散、新たに「兵庫ブルーサンダーズ」が発足した。
発表の場は兵庫県三田市、キッピースタジアム。野球にほとんど興味がない私が球場に向かった理由は、ひとえにこの機会を逃したら新球団の発足といったイベントを見ることは一生ないだろうと考えたからだ。
観客席に上がる。グラウンドでは夜だというのに小学生の野球教室が行われている。新球団発足式の日はプロ野球(NPB)のドラフト会議があり、神戸ナインクルーズからも指名される可能性があるという。小学生の目の前でプロ野球選手誕生を見せる演出と見た。
巨人がナインクルーズの選手、福泉を育成で指名したとニュースが入ってきて、球場が沸く。そしてナインクルーズ解散式を経てブルーサンダーズ発足式へと進むのだが、どうも様子がおかしい。この場に詰めかけているはずの記者たちの姿が少ない。新聞社2社、テレビ局1社くらいだろうか。
改めて観客席を見渡してみると、観客も年齢層が限られている。多くがグラウンドにいる子供たちの父兄のようだ。新球団の発足式に詰めかけているファンはほとんどいないように見えた。
「大丈夫か?」 それが発足式の会場にいた私の感想だった。
バイト先を探しに訪ねてきたキャプテン
2009年にスタートした関西独立リーグは、発足当初からトラブル続きであった(詳細は長くなるので、興味のある方はウィキペディアの関西独立リーグ関連の項目などを参照されたい)。
女性プロ野球選手、吉田えりが入団して話題となった神戸ナインクルーズもトラブルから逃れることはできず、球場使用料の節約のため、本拠地をグリーンスタジアム神戸(現「ほっともっとフィールド神戸」)から三田市のキッピースタジアムに移し、選手の給料もゼロにした。それでも経営は困難を極め、2010年にリセットを強いられることになる。
日本初の女性球団オーナーとして知られたナインクルーズ代表・広田和代は、親会社の命により球団経営からの撤退を余儀なくされたが、撤退後の選手の行く末を案じていた。そのため以前からナインクルーズの応援に力を入れていた三田市の飲食業、福助グループ社長、福西文彦に相談を持ちかけた。球団経営に失敗した者が言うのもおこがましいが選手に罪はない、だから後を引き受けてもらえないか、と考えたのだ。
福西も、できるものなら引き受けたかったが、福西の会社も球団を維持できるだけの財務的体力はない。