JBpressには昔から縁があるんだ。編集長の川嶋くんとは、奴がまだ日経ビジネスの記者で駆け出しの頃、おれが講演に行く時によく後をついてきて、一緒に全国行脚してからの仲だから、もうかれこれ20年以上のつき合いになる。

社会全体が勢いで満ちていた時代

 当時は、バブル経済の前くらいで、日本も登り坂。社会全体も上昇気流にいるような活気が漂っていた。

 当時の日本は世界一治安の良い国と言われ、サラリーマンはモーレツ社員が会社の花形だった。子供たちは激しい受験競争の中で勉強に励んでいたし、体罰も当たり前。わずか二十数年前のことだ。当時はとにかく社会全体に勢いというものがあった。

 日本の製造業も活気に満ちていた。貿易黒字がどんどん拡大し、アメリカの製造業が斜陽産業となりつつあり、特定の業界の意を汲んだ政治家が日本をバッシングしたりして。

 だが、この時期の日本は輝いていたんだ。

 この頃のおれは、かつてジッポーのライターのケースをつくっていた技術を生かして、ソニーの「ウォークマン」用のガム型電池ケースを開発した時期だ。ウォークマンは世界的なヒット商品となって、メイド・イン・ジャパンは「安かろう悪かろう」から完全に脱却を果たしたんだな。

 ところが最近は、日本発の世界的ヒット商品というのが少なくなってきているような気がする。政治、企業、社会が、もう一度、日本の製造業というものについて真剣に考えなければならない時期に来ているんじゃないかと、おれは感じているんだ。

 製造業は日本の根幹だ。日本は産油国と違って石油や鉱物資源はない国だけど、人と技術という豊富な資源がある。大企業を支える技術が集積した町工場は、いわば日本の油田のようなものだろう。

 日本のものづくりが元気になるために、おれの考え方ややり方を、これから少しずつ綴っていこうと思う。