地政学という言葉が復権を遂げた。国際政治の古い辞書から引っ張り出させたのは、勢力圏の保全と拡大へ舵を切ったロシアと中国である。
ことに最近中国が見せる振る舞いは、リベラル一辺倒だった欧州勢をも、再び世界の地図を地政学のアングルから見る気にさせている。力と力のぶつかり合いとして世界を眺めるリアリズムの視点が、欧州に戻ってきた。
週末をロンドンで過ごし、インドの世界における地位を巡る2日間の議論に参加して、この感を強くした。
中国の脅威、インド人は口々に
インドから加わった研究者や退役海軍将校たちは、1人残らず、中国の脅威を警戒的な調子で語った。米国、日本と組むことが、インドにとって中国の力をバランスするためどれほど大事かを強調した。
典型的な遠交近攻の論理が、地政学の文脈でインド人の口をついて出る。欧州各国からの参加者は、それをただじっと聞くのみ。同意できぬというふうに、首を横に振る者は1人もいなかった。
これが、ジャーマン・マーシャル・ファンドとレガタム・インスティテュート、それにスウェーデン外務省の共催で開かれたセミナーにおいて、最も印象に残った事柄である。
ポスト・ポスト冷戦時代に入った
世界は本当に、ポスト・ポスト冷戦時代に入ったのだということもできる。
東西二極の冷戦時代、重要だったのは米国側かソ連側か、どちらのキャンプにいるかであって、合従連衡の余地はなかった。その意味では至極簡単な図式だった。
それがポスト冷戦時代になると、経済のグローバリゼーションやロシア、中国の市場経済化が、世界秩序から軍事力や同盟の意味を大きく後退させたと信じられた。
中国人がよく言う「win-win」の関係こそ支配原理であって、貿易と投資の網の目が、世界を平和と安定に導くと思われたのである。