先日、ロシアから親友が日本にやって来て、私に電話をかけてきた。「ロシアは元気ですか」と何気なく聞いたら、「想像を絶するぐらいに大変だ」と言う。「来年3月あたりにロシア経済は破綻してしまうだろう」と悲鳴を上げていた。

 本当にそんな状況なのかと思って、ロシア経済に精通する知り合いに電話したり、ネットをうろついたりした。親友の発言はかなり大げさだったようだ。

 しかし、「破綻」とまではいかないとしても、状況がさらに悪くなっていくことは間違いなさそうだ。世界経済の落ち込みがいつ底を打って、右肩上がりに転じるのか。早くて来年の7月だという声もあるが、2010年末までは不況が続くという見方も多い。そうなるとロシア経済がより悪い状態に落ち込んでいくのは避けられない。

 世界不況の影響は国によってまちまちである。米国は機軸的な地位を失う可能性が高い。一方、日本にとっては、一時的なマイナス成長に陥るかもしれないが、長い目で見れば明らかにチャンスである。構造的に強い経済なので、不況を乗り越えてもっと強くなれるはずだ。危機があってこそ古い秩序が破壊され、新しい秩序が生み出されるのである。いわば陣痛みたいなものだ。自然淘汰の効果もある。

 ロシアは世界不況の試練をくぐり抜けて生き残るだろう。ただしその結果、強くなるのか、もしくは1998年の危機後のように後退してしまうのかは分からない。

 ロシアは、石油価格がどんどん高騰する「黄金の時代」に豊富な余剰資金を蓄えてきた。その資金は次第に消えつつあるが、まだゼロになったわけではない。11月17日現在、ロシアの予備基金の資金は1313億ドルある。財務省が運営できるもう1つの資金「国民福祉基金」は612億ドル。その余裕のおかげで、経済の落ち込み方はまだ穏やかだ。

農業と民間企業がロシアを支える

 世界銀行は2008年のロシアの成長率を6.8%から6.0%に、2009年の予測成長率を6.5%から3.0%まで下方修正したと発表した。来年は日米欧がマイナス成長になるのを考えれば、3%成長は少しも悪くない。ただし世界銀行は、もっと下がる可能性もあると警告している。 

 その要因として、まず世界不況がもっと深刻になるかもしれない。もう1つはもっと重要で、ロシア政府の不況対策がうまくいかないことである。

 経済危機の時には構造的な問題の解決が必要となる。例えば中国は失業率を抑えるために内需を拡大する政策を取る。膨大な資金を持つ中国の中央銀行は、インフラ整備の公共工事で雇用を生み出すための資金注入を行おうとしている。

 ロシア政府が一番恐れているのはルーブルの暴落だ。ドル高・ルーブル安が進んでいる。ロシア中央銀行は地すべり的な下落にならないように膨大な資金を注入している。9月から10月までの2カ月間、ルーブルを買い支えるために575億ドル相当の外貨を売却した。