年明けから政府がJRや鉄道車輌メーカーなどと官民合同で新幹線の海外売り込みを加速させている。世界中で進行中の大規模高速鉄道プロジェクトに対応し、安全で高性能の日本の新幹線を新たな輸出品目にしようというのだ。だが、国際入札を勝ち取るには克服すべき課題も少なくない。
海外へ売り込みに「新幹線外交」強化
「米政府は近く具体的な対象路線を発表するそうです。情報収集を強化しなければ」。1月21日夕、厳寒の米ワシントン。市内のセントレジスホテルで開かれた記者会見で馬淵澄夫国交副大臣はこう語って表情を引き締めた。
この日の午後、このホテルで政府は官民合同の高速鉄道セミナーを開いた。米オバマ政権が進める高速鉄道ネットワークに新幹線方式の採用を働き掛けるためだ。政府側から馬淵副大臣を代表に外務、経済産業の担当者、企業側からは清野智JR東日本社長や森村勉JR東海専務らが参加。ラフード米運輸長官をはじめ米議員や政府関係者を招待して、日本の新幹線の安全性や省エネ性能の高さをアピールした。
政府は米国でのセミナーに先立ち、ブラジルにも18日から22日まで、長安豊国交政務官らを派遣して、日本の新幹線方式を売り込んだ。
一方、国内でも18日、インドのカマル・ナート陸運・幹線道路相が東京・霞が関の国土交通省を訪れ、前原誠司国交相と会談している。両相はインドの道路輸送や高速道路インフラ整備のために協力することで合意し、両国間の相互協力を正式に進めるためのMOU(覚書)を交わして共同作業部会を設置することにした。
エコ&景気対策で、鉄道輸送見直し機運
米国やブラジル、インドだけではない。いま世界各国で高速鉄道の敷設計画が花盛りだ。ロシアや中国などBRICsをはじめ、ベトナム、英国、香港、カタールまで、いま判明しているだけでも十指に余る。
経済成長の著しい途上国はヒトやモノの安定した大量輸送のニーズを満たすために高速鉄道が必要だ。また地球環境問題への対応を迫られている先進国でも、二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく、効率的に輸送ができる高速鉄道が見直されている。
裏を返せば、ガソリンを大量消費する自動車や航空機輸送が曲がり角に来ているということだ。巨額の公的資金を投じた鉄道敷設は大量の雇用創出が期待できるし、景気を下支えするメリットもある。