日本時間1月8日夕刻、米12月雇用統計の発表を控えていた時間帯に、あるマスコミ記者から電話をいただいた際、米国株にとって雇用統計がどのような数字になるのがベストか、という話になった。雇用統計の内容が強すぎると、早期利上げ観測につながるので、米国株にとってはネガティブ。一方で、雇用統計の内容が弱すぎると、本格的景気回復は遠いという見方が強まるので、これも米国株にとってはネガティブ。結局、雇用統計がある程度は良いものの回復力の弱さを同時に示す内容に落ち着いて、早期利上げ観測が浮上しないケースがベストだ、という結論になった。

 この会話から浮かび上がるのは、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする各国中央銀行の超金融緩和に立脚した金融相場(流動性相場)としての性格を強く帯びている足元の株価上昇が、いかに危ういものかということである。

 英エコノミスト誌は1月11~18日号で、「バブル警報(Bubble warning)」と題した記事を掲載した(JBpress 1月12日掲載「世界の市場:バブル警報」)。サブタイトルは、「持続不可能な政府による景気刺激に市場は依存し過ぎている。このままということにはならない」。フリーマネーの効果には目覚ましいものがある、という書き出しのこの記事は、いまの株高に内在している矛盾を、鋭く指摘している。

 「成長が緩やかなものにとどまる限り、金利は低水準にとどまるだろう。しかし、経済成長が緩慢な場合には、現在の株価を正当化するのに十分なほど速く、企業収益は増加しないし、現在の住宅価格を正当化するのに十分なほど速く、所得は増加しないだろう」

 「他方、もし市場が経済成長見通しにおいて正しく、現在の回復が持続するならば、政府は今年遅くにはチープマネーの供給を打ち切ることによって、状況に対応するだろう」

 「今日、多くの資産の価格は、持続不可能な財政および金融面の刺激策によって持ち上げられている。このままということにはならない」

 12日の米国市場では、前日取引終了後に発表されたアルミ大手の昨年10-12月期決算が市場の期待に届かない内容にとどまったことから、株が軟調。ニューヨークダウ工業株30種平均は前日比▲36.73ドルと、5日ぶりに反落した。

 中国人民銀行が12日に預金準備率の0.5%引き上げを発表したことも、流動性相場崩壊の連想から米国株安につながった面があるという(引き上げは18日実施で、大手銀行が15.5%、中小銀行が13.5%)。準備率引き上げは、「リーマン・ショック」前の2008年6月以来、約1年半ぶりのこと。利上げはまだ先のことと見込まれるが、金融機関貸し出しやマネーサプライが急増しており、過剰投資やバブルの懸念が強まっている中で、人民銀行は緩和度合いの微調整を開始したものと受け止められる。端的に言えば、「出口」模索の第一歩ということである。