前回に引き続き、アルザス地方の町、ミュールーズの話である。ここは染織業を中心にした産業で栄えた町だったということは既に述べた。そして、今はかつてほどの勢いはないということも・・・。

アルザスの田舎町に不似合いな博物館の数々

ミュールーズ自動車博物館

 ただし、地方の、それも決して大都会とは言えないこの町ではあるが、かつての繁栄を物語るように、現在の町のサイズに不相応なくらいの数と内容の博物館がある。

 前回紹介した染色博物館をはじめ、歴史博物館、鉄道博物館、電気の博物館、プリントペーパーの博物館等々・・・。

 それらはいずれも、この町が培ってきた技術の優越性や豊かさを物語っている。中でも最も有名なのが、Cité de l’Automobile Musée National –Collection Schlumpf(シテ・ドゥ・ロートモビル ミュゼ・ナショナル―コレクション・シュルンフ)。

 クラシックカーを集めた国立自動車博物館である。展示台数437。それらが1万7000平方メートルの館内に並んだ様子はまさに壮観。世界最大級の自動車博物館である。

 さて、このちょっとばかり長い正式名称には、理由がある。そのいわれを知るには、博物館ができるまでの経緯、そして何よりシュルンフ・コレクションの生い立ちから話を進める必要がある。

羊毛の仲介や製糸業で成功、車の一大コレクションを始めた

博物館の元となった大製糸工場時代の写真

 シュルンフ兄弟、ハンス・シュルンフとフリッツ・シュルンフは、それぞれ1904年と1906年にイタリアで生まれた。

 父親はスイス人、母親はミュールーズの人である。家族は1906年にミュールーズに落ち着き、父は100人からの従業員を従えて、園芸会社の会計として働くが、1918年に他界している。

 兄のハンスは、スイスの上級学校で経済を学んだ後にミュールーズに戻り、銀行マンとなる。一方、弟のフリッツは地元の高校を出た後、やはり地元のテキスタイル工場に就職するが、1928年には独立して羊毛の仲買業を始める。

 翌年には、兄も弟の事業に加わる。彼らはさらに、製糸工場をはじめ様々な企業の株式を買い、活動の範囲も、地元ミュールーズだけではなく、フランスのほかの地方にまで広げるなど、事業を拡大させていった。

 1957年、後にこの博物館の箱となるミュールーズの大製糸工場を買う。そして、以前から複数のラリーに参加するほどの車好きだったフリッツのクラシックカーコレクションもまた、この頃から始まるのである。