2008年9月のリーマン・ショック以来、米国のテレビ業界は広告収入の激減に喘いでいる。2009年6月に地上テレビ放送のデジタル化完全移行も起爆剤とはならなかったし、メディアの細分化(セグメンテーション)とインターネットが限りなくマスメディア化している現状に鑑みれば、たとえ、景気が回復しても、広告収入が従来水準に回復することはないだろう。

米国版・ワンセグ放送で起死回生なるか?

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携帯電話の画面に見入る男性。いまや、家のリビングルームだけが、テレビを見る場所ではない〔AFPBB News

 そんな中、米放送業界が期待を寄せているのが、日本で「ワンセグ放送」として知られる、携帯電話などの移動体通信向け番組伝送だ。今や、自宅リビングでソファに座って──というだけがテレビの見方ではない。様々なライフスタイルの多くの視聴者を獲得し、低迷続くテレビ業界再浮上に向けての起爆剤にしたいというのが、放送関係者の狙いだ。

 米国では、2007年5月に次世代テレビ委員会(Advanced Television Systems Committee=ATSC)が米国版ワンセグ放送の統一標準の公募を開始。地デジ移行に伴い、多額の設備投資を余儀なくされた放送事業者は携帯端末関連事業者、消費者家電メーカーと一致団結して、オープン・モバイル・ビデオ連合(Open Mobile Video Coalition=OMVC)を結成。2年5カ月という、従来では考えられないような迅速な動きで、移動体向けDTV放送番組伝送の技術標準策定にこぎつけた。

 次世代テレビ委員会が採択した標準は「ATSC-Mobile/Handheld」(ATSC-M/H)方式として知られている。技術標準決定に大きな役割を果たしたOMVCには、全米のおよそ800に上るローカルテレビ局が参画しており、2009年8月にワシントンを中心に移動体向けDTV関連機器を使った受信テストを行い、新しく開発した内臓チップがうまく適用できているかの確認を行った。

 家電メーカーのLG電子やデルは、2009年10月の段階でプロトタイプの移動体DTV受信機や、ATSC-M/H標準の放送受信が可能なネットブックコンピューターの試作を終えている。また、移動体受信端末関連機器メーカーとして実績を上げてきたピックスツリー(Pixtree)では、USB端子をノートPCに差し込むだけで、DTV番組が受信できる製品の市販に向けた準備を整えている。