2010年1月、日本の産業界は「主役不在」のまま年が明けた。止まらぬ円高、そして深刻なデフレ・・・。厳しい状況下、名だたる企業の多くが依然もがき苦しんでいる。中でも残念なのは、長年、主役中の主役であり続け、日本経済を強力に牽引してきたトヨタ自動車がいまだ本来の姿ではないことだ。

トヨタ自動車社長に豊田章男副社長が昇格へ、日経新聞

豊田章男社長、赤字脱却が至上命題(参考写真)〔AFPBB News

 創業家出身の豊田章男氏を社長として担いだ新体制も、はや半年が過ぎた。この間、世界同時不況の影響で「どん底」にあった業績は幾分マシになったとは言え、まだまだ胸を張れるような状況ではない。前期から続く営業赤字は2010年3月期も巨額に上るとみられ、2011年3月期(来期)に目指す3期ぶりの黒字転換が達成できるかどうか依然不透明だ。

 「3期連続赤字を回避するため、できる限りの手を打つ」――。章男社長が就任会見でこう高らかに宣言したことが、何やら遠い昔のように思えてくる。「こんなはずではなかった」とは、当のトヨタ首脳陣が一番感じていることではなかろうか。

「死んだふり」ではないトヨタ、ホンダ・日産に後れ取る

 トヨタは死んだふりをしているに違いない――。かつて見たことのないナンバーワン自動車メーカーの窮状に対し、2009年春頃まではこんな指摘もあった。

 リーマン・ショック以降の荒波を受け、海の向こうでは米ゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーがトヨタ以上の危機に瀕していた。まさに生きるか死ぬか。そうした中、下手にトヨタだけが好業績を続けていれば、やりたくもない米大手2社の面倒を押し付けられかねない。それを回避するため、トヨタはそれほど厳しい状況ではないにもかかわらず、わざと業績難のように見せかけている・・・

 つまり、「死んだふり」をしているというのである。あのトヨタが巨額の赤字を抱えるはずがないとの思い込みが、そうした幻想を呼んだのだろう。

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ホンダ、日産は黒字確保へ(参考写真)〔AFPBB News

 結局、クライスラーは2009年4月30日、GMは6月1日にそれぞれ連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)に基づく会社更生手続きの適用を申請し、経営破綻した。だがその後も、トヨタの業績は厳しいまま。期待されたV字回復は一向に実現されず、今日まできている。

 各国の新車購入支援策などを追い風に、ホンダと日産自動車は一足先に2010年3月期の営業損益が黒字となる見通し。その額はホンダが1900億円、日産も1200億円。

 これに対しトヨタは当初の予想から大幅に減ったとは言え、依然3500億円の赤字を予想している。ホンダ、日産の両社に比べ輸出比率が高いことから、円高によるダメージがより大きく、回復の足取りは自ずと重くなっているのだという。

 ハイブリッド車「プリウス」をはじめ、他社もうらやむ人気車種を数多く抱えながらの体たらく。そしてホンダ、日産に後れを取る状況。やはり残念というしかあるまい。