2009年11月21日――。早朝の東京・銀座に行列ができていた。その数2000人以上。夜明けを待つひっそりとした辺りの雰囲気とは対照的に、そこだけが活気に満ちていた。ファーストリテイリングが展開するカジュアル衣料品店「ユニクロ」の銀座店である。
「創業60周年!本当にありがとうございます 大感謝祭」。この日、ファーストリテイリングは記念セールをスタートした。初日に限り、全国の主なユニクロ約400店舗では開店時間を午前6時に早めた。すると銀座店だけでなく、各所で開店を待ちきれない多くの客がまだ夜も深い時間帯から列をなしたという。
恐るべき集客力――。安さと機能性を武器に、小売業界で独走を続ける「新興巨人」の底知れぬ人気を改めて思い知る。奇しくも、政府が2006年6月以来3年5カ月ぶりに「デフレ宣言」を行った翌日のことだった。
「デフレ」楽しむユニクロ、逃さぬ消費者の関心
誤解を恐れずに言えば、ファーストリテイリングは「消費不況」「デフレ」と呼ばれる今の状況を楽しんでいるように見える。他社の苦戦を横目にやることなすこと、ことごとく当たるのだから、そう見えて当然だろう。
消費者の節約志向は強く、財布の紐は固いはずだが、ユニクロ商品は特別なのか。発熱保温肌着「ヒートテック」、ブラジャーなしで着られる女性用の「ブラトップ」が相次いで大ヒット。格安ジーンズの先駆けとなった990円ジーンズを2009年3月に低価格ブランド「ジーユー」で発売すると、こちらも好調な売れ行きとなった。
1000円を切る格安ジーンズはその後、イオン、西友、ドン・キホーテなどが追随。各方面で今年最も話題を集めた商品の一つに数えられている。有名ファッションデザイナーのジル・サンダー氏と組んで、2009年10月に発売した新ブランド「プラスジェイ」の周りにも顧客が群がる。そして、今回の創業60周年記念セールである。
新聞やテレビへの露出度も高い。消費不況下、ヒットを続ける話題企業だから、取り上げられて当然といえば当然だが、ファーストリテイリングはそれをうまく活用しているように見える。その時々の話題性を盛り込んで発信し、消費者の関心を逃がさない「仕掛け」として使っているのではなかろうか。