秋はここパリでも芸術の季節。アートにまつわるイベントは1年を通して盛んだが、とりわけこの時期には、力の入った展覧会が行われる。そこで今回は、今、最も注目を集めている展覧会の1つ、グランパレで開催中の「20世紀のルノワール展」についてリポートする。

20世紀のルノワール作品に絞った展覧会

 ルノワールと言えば、日本でも喫茶店チェーンの名前になるほどのビッグネーム。フランス絵画を代表する画家の1人と言っていいだろう。今回の展覧会では、特に「20世紀の」というくくりを設け、印象派の画家が独自の世界を切り開いてゆく過程を表している。

 展示はまず、ときのジャポニズム趣味が扇のモチーフに端的に表れた「村の踊り」「町の踊り」から始まり、ピカソやボナールなど、ルノワールから影響を受けた画家たちの作品を並列させたりしながら、総計100点を超える作品が一堂に集められている。

 この展覧会を企画した、オルセー美術館の学芸員、シルヴィー・パトゥリさんにお話をうかがった。

 「20世紀、もっと厳密に言えば、1890年からのルノワールの人生最後の30年の変遷にスポットを当てた展覧会です。印象派の画家として知られる70年代、それとは決別した形の80年代に続く90年代から20世紀に時代を設定しています。クラシックな主題に回帰しているようでありながら、より自由で、直接的な現代性が見られるところ。例えば、よりまろやかで、とろけるような、魅惑的なタッチになってゆく過程がお分かりいただけると思います」

経済的苦労を重ねた若い時代

展覧会を企画したシルヴィー・パトゥリさん。後ろの写真は、晩年のルノワール

 ピエール=オーギュスト・ルノワールの生没年は、1841~1919年。印象派の時代は、彼が30代の時に当たる。今でこそもてはやされる印象派の絵画も、当時はむしろ異端に属する画風で、買い手がつかないことがしばしば。彼らの暮らしは楽ではなかった。

 その時代の彼の代表作である「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」などは、同じ画家仲間の中でも、裕福な家の出だったカイユボットが買い受けている。それに続く40代も経済的には決して豊かではなかったが、南仏、イタリア、そして北アフリカへの旅を通じて、新しい画境への糸口をたぐり寄せた、いわば過渡期と言える時代に当たる。

 そんな中、第1子、ピエールが生まれる。といっても、実はそれ以前にも、彼には娘があったらしいが、それは公にはされていないので、44歳でルノワールは晴れて初めてパパになったことになる。