日本企業は、人と組織の面において今までになかったような重大な課題に直面しているのではないか。日本能率協会ではそう考えて、「潜在能力の組織的発揮」というテーマで研究を行い、産業界への提言を続けています。

仕事へのやりがいを急速に失いつつある日本

 日本企業が真の復活を遂げるためには、これまでの日本企業の強さが何であったのかの確認が必要です。戦後の高度経済成長は、卓越したリーダーシップを発揮した創業者や、勤勉で真摯に取り組む人材の厚みによるところの高い技術力と強い現場力によって実現しました。

 しかしながら、現在の企業経営においては、日本企業の強さの源泉であった最も大切な要素の1つである「人を大切にする経営」が忘れられてしまったような気がしてなりません。実際、『平成20年版労働経済白書』によると、「仕事のやりがい」など、仕事への満足感が長期にわたり右肩下がりになっています。

 さらに、私たちが最も重視していることは、何よりも「日本の企業経営の根幹には『育てる文化』があった」ということです。長期的な時間軸を大切にしていたということです。

 日本企業の強さは、技術力です。それを支えるのは人材です。いずれも長期にわたってじっくり育てるものであり、だからこそ簡単に真似ができないのです。翻って現在の職場では、「長期的視野」「社員の心と活力」「強い現場力」に不安が生じてきているのではないでしょうか。

「日本で成果主義を導入してはいけない」と米国の権威が言う

 昨年9月から10月にかけて、私たちは金融システム崩壊の直後に米国の研究機関をいくつか訪ねました。

 そこでは短期的・個人重視の米国社会に比べて、長期的・集団の力を重視する日本社会へのある意味での羨望とも聞こえる声を複数耳にしました。「米国は『選ぶ』文化であり、日本は『育てる』文化である」とは、1980年代に苦闘の末に米国工場を立ち上げ成功に導いた日本人経営者の言葉です。

 日本企業の経営方法が必ずしもすべて優れているのではなく、欧米の企業に比べても、「明快なビジョン」「国際感覚」「スピード」「戦略を生み出す力」「経営の透明性」などの強化が必要です。

 しかしながら、日本企業が強さの源泉であったところの「経営の原理」が何であったのか、また何であるのかということを確認し、そのことは厳しい中にあっても、変えてはいけない、と固く信じるものであります。