企業にしろ役所にしろ、あるいは社会全体にしろ、人を動かして組織や世の中をより良い方向に導いていこうとすれば「信賞必罰」が欠かせない。先頃オバマ米大統領のノーベル平和賞授賞決定が世界中を沸かせたが、日本でも間もなく年に2回の栄典の季節がやってくる。文化の日の11月3日付で発令される秋の叙勲である。

 天皇の名で勲章を授与されるのは、国家または社会に功労のある70歳以上の者(著しく労苦の多い環境や人目につきにくい分野での業務精励は55歳以上)。地方自治体や業界団体などから各省庁を通じて6月末までに候補者の推薦がなされ、内閣府賞勲局の審査を経て、発表の1週間ほど前に閣議決定される。

オバマ大統領のノーベル平和賞受賞、米国での受け止めは

ノーベル平和賞受賞、オバマ米大統領〔AFPBB News

 春秋ともに受章者は4000人程度。だが、今年のノーベル平和賞のようなサプライズはあり得ない。賞勲局のこしらえた授与基準に沿い、各省庁がそれぞれの管轄団体や業界に候補者推薦のガイドラインを示しているからだ。

 1964年に復活した生存者叙勲制度は当初から官僚機構にがっちりと組み込まれ、公益法人や天下りの仕組みと構造的に重なり合いながら根を下ろしてきた。

 老いた企業経営者たちが人生の総仕上げとして目指すのは、1ランクでも上の勲章なのだという。名誉欲にかられた彼らの足元を見透かし、政治家は票とカネの見返りに、官僚は業界の統制や天下り先の確保のために勲章の魔力をちらつかせてきた。

 警察庁OBで初代内閣広報官を務めた宮脇磊介氏は10年ほど前、自民党政権下で既得権益を擁護し合ってきた政・官・業とマスコミの「鉄のクワドラングル(四角形)」を「叙勲秩序」と名付けて批判した。「官僚支配の打破」や「天下りの根絶」を掲げて鳩山由紀夫新政権が発足したときに筆者がふと思ったのは、この叙勲秩序に新政権はどう向き合うつもりだろうかということである。

等級廃止後も官製格付けシステムは不変

政調会長時代、叙勲制度に問題提起した亀井氏

 叙勲制度に一大転機が訪れたのは1999年12月、亀井静香自民党政調会長(当時、現金融担当相)が「官尊民卑の傾向がある。人間の一生に等級を付けて評価していいのか」と問題提起したのがきっかけだ。その背景には、叙勲の官民格差に対する経済界の不満があった。端的に言ってしまえば、「俺たちにもっとよこせ」という圧力である。

 首相官邸が設けた有識者会議「栄典制度の在り方に関する懇談会」の報告書を受け、小泉純一郎内閣が栄典制度の改革を決定したのは2002年8月。(1)勲一等、勲二等など数字による等級表示を廃止(2)勲章は旭日章と瑞宝章の2種類とし、功労の大きさに応じた区分をそれぞれ6段階(従来は8段階)に簡素化(3)旭日大綬章・瑞宝大綬章の上に桐花大綬章を設定(4)上位勲章受章者数の官民不均衡に留意――という内容で、2003年秋の叙勲から適用された。